ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
 いつもと変わらない彼の声に琴音は胸を撫でおろす。飛行機の事故は自動車事故よりずっと確率が低いけれど、それでもやはり心配にはなるのだ。

「もう眠っています。今日は三人でお買いものに行ってきました。明日はふたりが――」

 パパのための料理を手伝ってくれる。そう伝えようとした琴音の言葉は、申し訳なさそうな彼の声に遮られる。

『すまない。実は……』

 明日の昼は急用が入ってしまった。沈んだ声で彼はそう言った。

『たった今、桜さんのお父さん、BBLの社長から連絡があって。明日の昼は彼と会うことになったんだ』

(BBLの社長……)

 まったくの別件かもしれない。でも、沙里の顔が琴音の脳裏をよぎった。

 彼女がもう動き出していて、父親経由でBBL航空の社長に話が通っているのかもしれない。

(社長の用事が、沙里ちゃんとの縁談の件だったらどうしよう……)

『来期の経営企画のために、現場の声を聞きたいとのことでね。そんなに時間がかかるとは思えないし、夕方にはそっちに行けると思うんだが』

(経営企画のために現場の声を?)

 琴音の想像していた方向とは全然違う用件のようだ。
 
(そうよね。沙里ちゃんのあの台詞だって、どこまで本気かわからないし)

 自分の早とちりに、琴音は苦笑してしまった。

『社長との会食が終わり次第、すぐ連絡する。会うのはそれからでも大丈夫か?』
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