高嶺のパイロットは、秘密の双子とママを愛で倒す~地味な私が本命だなんてホントですか?~
 間違いない、沙里だった。そして彼女の呼びかけに応じている背の高い男性は……。

(――黎治さん!)

 ふたりの姿は雑踏のなかに消えていったけれど、琴音はその場から一歩も動けなかった。

(どうして黎治さんが沙里ちゃんと? 社長と会食の予定だったんじゃ……)

 彼が嘘をついたのだろうか? なんのために?

(落ち着いて。なにか事情があるのかもしれないし……)

 沙里は黎治を取材している記者だ。仕事絡みの用事かもしれない。

(でも、それなら私に嘘をつく必要はないよね?)

 黎治を信じたい気持ちと、嘘をつかれたと失望する気持ちが琴音のなかでせめぎ合う。

『黎治さんと結婚するのは私だから』

 沙里は昔から、欲しいものは堂々と口にして必ず手に入れる。そういうタイプの子だった。

(今回もそうなったら、どうしよう)

 彼女を恐れ、おびえていた過去の自分にのまれてしまいそうで怖くなる。

 琴音はフラフラと道の端に寄り、そのまま力なくしゃがみ込んだ。

(今さら、黎治さんと離れる未来なんて……)

『琴音ちゃんはさぁ、昔みたいに……隅っこでうつむいているのがお似合いよ』

 この前、沙里に言われたひと言がナイフのように琴音の心臓をえぐる。

(嫌だ。本当に隅っこでうつむいているじゃない)

 弱い自分は卒業する、双子を産んだときにそう決意したはずなのに――。
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