ズルくて甘い包囲網~高嶺のパイロットはママと双子を愛で倒したい~
「あの、大丈夫ですか? もし具合いが悪いなら救急車を呼びましょうか」

 琴音の頭上に誰かの優しい声が落ちる。

「あ、いえ。大丈夫です、ただの立ちくらみなので」

 弁解の台詞とともに琴音は顔をあげる。

「え?」

 優しいその女性と琴音の声が、重なった。

「舞さん?」
「琴音ちゃん?」

 心配して声をかけてくれたその女性は、かつてとても世話になった整備士の先輩、舞だった。

 近くの喫茶店で、琴音は舞と向き合う。

 乙葉に電話して『偶然、知り合いに会ったから少しだけお茶をしてきてもいい?』と頼んで、許可をもらった。

「久しぶりだね、琴音ちゃん」
「はい、本当に!」

 彼女が整備士をやめてしまったのは、琴音が双子を産むより前の話。なので、約三年ぶりの再会ということになる。

「――琴音ちゃん、ごめんね」

 舞は申し訳なさそうに視線を下に落として、ぽつりと言った。

「琴音ちゃんは何度か連絡をくれたのに、私……そっけない返事ばかりで」
「いえ。転職直後で忙しかったんですよね。気にしないでください」

 そう返事をしたものの、実は……彼女のことはずっと気にかかっていた。

 琴音と同じくらい、彼女も整備士の仕事が好きだったのに急に退職してしまったことも、メッセージへの返信がそっけなかったことも。

(だけど、触れてほしくなさそうな雰囲気で聞けなかったのよね)
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