男性不信のお姫様と女性不信の王子様はカボチャ姫を愛す

お姫様が男性不信になった訳


 私はウェンスティール国の王女エレノア・スティール。
このウェンスティール国は自然豊かな国。
エメラルドグリーンに色づく壮大な山々。
別名、花の国とも言われるほどに年中美しい色とりどりの花々が咲き誇る。
広大な湖の水は綺麗に透き通っていて、空色を湖面に映し出すほどだ。
そのためスカイミラー湖と名づけられている。

⭐︎

 今年十六歳の誕生日を迎えた私には多くの縁談が持ち込まれていた。

ーーなんて億劫な事だろう。

なんといっても私は男性不信なのですからっ!!
何故、私が男性不信に陥っているかというと……。
きっかけとなったのは父リチャード国王にある。
お父様は眉目秀麗で、その容姿は国内の女性達のみならず国外の女性達にも知れ渡るほどであった。
お父様はまだ王子であらせられた若かりし頃から数多の浮き名を流し、流し、流しまくっていたようだ。
私のお母様でもあるローズ王妃は娘の私から見ても大変お美しく、聡明で、いつも民を思い、誰に対してもお優しい方だ。

――それなのにどうして?

親同士が決めていた政略結婚といえども……お可哀想過ぎる。
本当に不憫で仕方がない。
お父様の女癖の悪さは結婚してからもご健在であった。
――あれはそう……忘れもしない。
私が九つの時の出来事だった。
私付きの侍女のマリアが忽然と姿を消した。
どうもその原因がお父様との不貞だったのではないかと……。
そう侍女達が話しているのをたまたま耳にしてしまったのだ。
私はとっさに草陰に姿を隠し息を殺しながら侍女達の話に耳を傾けた。

「リチャード国王は前からマリアのことを何かとよく気に掛けておいでだったから…… きっと国王に見初められたのよ」

「そうねぇ…… 確かにマリアは侍女でいるのは勿体ないほどに器量のいい娘だったわね」

「でも王妃様に不貞がバレて城から出て行くことになったのなら自業自得よね?」

「リチャード国王は色男だし。昔から色恋沙汰の噂が絶えない方ですもの。王妃様も苦労されるわね……」

ドスーーンと、重い石が私の胸に落ちてきたのではないかと思うくらいに胸が苦しくなっていった。
物心ついた頃から私のそばにずっと一緒にいたマリアが……あのマリアが……お父様と……。

ーーそんな……。

私のショックは大きかった。
お母様に聞くこともできない。
誰にも言うこともできない。
その行き場のない不安定な情緒の矛先は男性へと向けられ男性とは不誠実でふしだらな生き物なのだと思うようになっていった。
私には二つ年上のお兄様がいる。
この国の王子ジョセフだ。
ジョセフもまた、お父様とお母様の良き遺伝子を引き継ぎ色男として名高かった。
夜会ではお兄様とのファーストダンスを踊るべく女同士の熾烈な争いが繰り広げられる。
お兄様もその容姿の良さで今まで数多の女性達と浮き名を流し、流し、流しまくっていた。
そうして未だに婚約者を決めきれずに今に至る。
そう……お兄様もお父様と一緒で女性にだらしなかったのだ。
お父様もお兄様も容姿が良いからといって何をしてもいいというのですかっ!?

――許すまじ!!眉目秀麗男!!

そうして眉目秀麗男は男性不信の私の中でも一番の要注意リストへと入れられることとなった。

⭐︎

 ある日の朝、私はお父様に呼ばれ足早に執務室へと向かった。

ーーコンコン、

扉をノックする。

「入りなさい」

扉を開けるとそこにはお母様も居た。

「失礼いたします。なんのご用でしょうか?」

私はお父様とはあまり視線を合わせたくないのでお母様に視線を向け尋ねた。

「こちらへ座りなさい」

そう言ってお父様が自分の目の前のソファーへと私を促した。
私はゆっくりとソファーに腰掛け一体何の用なんだろうと考えていた。
するとお父様が意を決したかのように話し出した。

「エレノア、お前はもう十六になるだろう。縁談が絶えずきているというのに誰とも嫌がって会おうとしない…… 何故なんだ?」

そう言ってお父様がやや困ったような視線を私に向け尋ねた。

何故なんだっ……何故なんだ……何故なんだ……。
と言うお父様の一言が私の頭の中でこだましている。
それはですねーーお父様の行いが原因で私が男性不信に陥っているからですよーー!!
と言ってしまいたい気持ちをグッと飲み込んでいると、

「隣国カルテア国のアレクシス王子とエレノアがこの度、縁談することとなった。エレノアが拒もうがこの縁談だけは受けてもらわねばならない。エレノアとの縁談のためにアレクシス王子が我が国へと近々来訪される。詳しい日程は後日知らせることとするから、そのつもりでいなさい」

ーーなっなっなんですってーー!!
心の中で叫んだ。
お父様から隣国の王子との縁談を聞かされた私は困惑のあまり眉間にシワを寄せ黙り込んでしまった。
はぁ……。
なんでまたそんな断れない相手と縁談する事になってしまったのか?
でも、よく考えてみれば……カルテア国は隣国として友好国でもあり、お父様とハリー国王は同齢なこともあり昔から馬が合い、お二人の関係も良好だったわね。
うーーん。
そんな考えを頭に巡らせながらお母様に視線を向けると、

「そんなに固くならずに一度くらい男の方とゆっくり向き合って話してみるのも悪くないと思うわよ」

サラリとそう言って優しく微笑んで見せた。

ーーお母様……男の方といっても相手は隣国の王子なのですが……。
お父様の不貞を波風立てることなく華麗にスルーしてきたであろうお母様に言われると何を言われても説得力に欠け複雑なんですけども…… そう思いながらも、

「はい…… では失礼いたします」

と消え入るような声で返事をし部屋を後にした。

⭐︎

自分でも分かっている。
王族にとって国の利益になるためならば結婚に愛など求めてはいけないことを。
お母様を見れば痛いほどによく分かっているはずなのに……。
もし私がカルテア国に嫁げば両国の関係は今よりもっと磐石なものとなり更なる両国の発展にも繋がっていくかもしれない。
――だとしても今の私に結婚なんて……男性=不誠実でふしだらな生き物なんだと脳内に強固にインプットされている重度の末期症状!!
だけどそんな私でも王族の一員として必要があれば男性と話すくらいのことはする。
でも……きっと……いや、間違いなく!!
私の目はめちゃくちゃ泳いでいるだろうけど。
それくらいのことであればなんとか乗り切れても結婚となれば話は別よっ!!
私に結婚なんてできるの……?
この男性不信の私が?
私は未だかつて男性を好きになったことがない。
男性不信なのに好きになれるはずもない!!

ーーせめて男性不信さえ治れば……。

じゃないと長い結婚生活ままならないのでは?
せめて愛がなくともねぇ。
うん、うん、そうよね……。
んっ?
そもそも愛ってなんなのかしら?
こんな状態で隣国の王子と縁談なんて大丈夫なの!?
私……。
あぁーー許されるなら今すぐ国外逃亡したいわよ!!


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