男性不信のお姫様と女性不信の王子様はカボチャ姫を愛す

カボチャ姫は恋煩い


 もうすぐ舞踏会の時間ね。

「エレノア様、これで身支度が整いました。とーーってもお美しいですよ」

「そうかしら…… 私にこの赤いドレスは似合っているのかしら?」

「なにを言っているんです。とてもお似合いですよ!! いつものエレノア様よりも大人びて見えます」

「お、大人びている…… この私が……」

ーー子供っぽい私でもそう見えていたらいいけど。
アレクシスにどう思われるかしら?

「でも…… このキャロライン王妃からいただいた薔薇の髪飾りはとてもこの赤いドレスに似合っていて綺麗よね?」

「エレノア様の美しいプラチナブロンドの髪によく映えていますねーー」

「そうかしら? ねぇエマ、本当に私…… 変じゃないかしら? 大丈夫かしら?」

「なんの心配もございません!! エレノア様は着飾ったりしなくともいつもお美しいのですから!!」

ーーエマが必死に後押ししてくれているわ。

私……どうしちゃったんだろう……。
誰かに自分のことをどう見られるかなんて今まで気にもしなかったのに……。

ーーアレクシスに綺麗に見られたいと思ってしまう。
恋って……色気より食い気で生きてきたこの私を。
どこで寝ようとも寝つきだけは良いこの私を。
男性不信で男性とは無縁に生きてきたこの私を。
すっかりしおらしく変えてしまうだなんて……。
恋は恐るべしっ!!

ーーコンコン、

「エレノアーー、準備は出来たか? 入るぞっ」

あっ、お兄様だわ。

「どうぞ……」

「おーー我が妹よ!! 美しいではないか!! その赤いドレスよく似合っている」

お兄様の褒め言葉はあまり当てにはならないけれど……。
今は少しでも自分に自信を持ちたいから有り難く素直に聞き入れておきましょう。

「ありがとうございます。お兄様もそのお召し物素敵ですわよ」

「まぁ、私はエレノアのオマケみたいなものだからな。それに着る物なんてなんだっていいんだよ。私は顔が良いからなっ!! ハッハハハーー」

ーー本当にこの方は私と血の繋がりのある兄なのかしら?
お兄様のその自信を私にも分けてもらいたいくらいよ!!
私も自分にもっと自信が持てれば良いのだけれど。

「おっそうだ、そうだ!! エレノアに伝言があったのだった。アレクシスが薔薇園で待っていると言っていたぞ」

「そうですか…… わかりました。では行って参ります」

⭐︎

 アレクシスのもとへと向かう足取りが重いわ。
私……こんな状態でアレクシスに想いを伝えることなんて出来るのかしら?
でもこの想いを伝えずにウェンスティール国には帰りたくないもの……。
うーーん。
ちゃんと言えるのかしら私……。
あらっ!!
考え事して歩いていたらもう薔薇園に着いちゃった。
あっ、アレクシスが居たわ。

ーーあれは……あの胸元は……あの胸元に……。
やっぱりそうだわっ!!
アレクシスの胸元のポケットに赤い薔薇の花が挿してある!!
もしかして、もしかして……私の薔薇の花の髪飾りとお揃いにしようとしてくれたのかしら?
だってまるでお揃いじゃない!!
そうだとしたら……そうだとしたら……嬉しいわ!!
とても嬉しすぎるじゃないのーー!!
アレクシスとお揃いだなんて……。
私ったら勝手に舞い上がって顔が熱くなってきちゃったわ!!
早く落ち着かないと……。

「エレノアーー!!」

アレクシスが私に気づいて駆け寄った。

「ア、アレ、アレクシス、お待たせしました……」

またやっちゃったわよ。
舞い上がりすぎて噛んじゃったじゃないのよっ!!
恥ずかしい……。

「エレノア、綺麗だよ!! その赤いドレスも髪飾りもとてもよく似合っている!!」

ズキューーン!!
今、私の心臓に何かが射抜かれたような衝撃が……。

「ありがとう。アレクシスも素敵よ」

「いや、エレノアには敵わないよ!!」

ズキューーン、ズキューーン!!
あーーもうダメ!!
心臓が持たない……。
ーー落ち着いて、落ち着くのよ……私。

「では、早速大広間まで行こう。さあ、エレノア」

そう言ってエスコートポーズをとったアレクシスの左腕に私はそっと右腕をかけた。

ーーダンスの時もそうだったけど……腕を組んで歩くのも好きな人だと、とても緊張してしまうわ。

こんなに近くにアレクシスへ寄ってしまったら……私の心臓のバクバク音が悟られてしまうのでは……。
ーー私の心臓はダンスの時まで持つのかしら?
ドキドキしすぎて倒れたりしないわよね?
のぼせ上がってしまって鼻血が出たりしないわよね?
もう私はさっきからそんなことばかり考えているじゃないの!!
しっかりおしっ、エレノアッ!!
恋煩いを起こしている場合ではないわよ。
今を楽しみましょう!!

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