男性不信のお姫様と女性不信の王子様はカボチャ姫を愛す

赤い薔薇の花は誰のため?

 
 でも……さっきからやっぱり……ずっと空気が重いわよね。
ーー何故?
あらっ、誰かこちらへと走って来るわ。
あの方は……ハリー国王の執事の方のようね。

「アレクシス王子、こちらにいらっしゃられましたか。ミハエル伯爵が王子にご挨拶なされたいと仰っておられます」

「ああ、わかった。今行く。エレノア、悪いがもう少しだけ待っていてくれるか? すぐに挨拶を済ませて戻って来るから!!」

「ええ、大丈夫ですよ」

「アンドレも私と一緒に来て欲しい」

「いや…… 私はエレノア姫とここで待っているよ」

「ダメだっ!! ミハエル伯爵へ挨拶しに私と行くんだっ!!」

「はい、はい、わかりましたよ!! 今日のアレクシスは怖いなーー。いつにも増して取っ付きにくいよ……」

ーーどうしたのかしら……アレクシス?
さっきから様子が変よね?
いつも様子は変だけれど……今日は何かいつもと違う感じがするわ。
とっいうことは……アレクシスが戻って来るまで私はリタ様と二人っきりってことよね。
あっ、そうだわーーリタ様に小さな頃のアレクシスのお話でも聞かせてもらおうかしら。

「エレノア、それでは行ってくるよ。リタは早くサイラス公爵のもとへと戻ったほうがいい」

ーーえっ!?
私は今からリタ様とお話をしようかと思っていたのですけど……。

「それは…… わたくしの好きにさせていただきますわ」

「………。」

アレクシス黙り込んでしまってる。
どうしたのかしら?

「……… アンドレ、行くぞっ」

去り際のアレクシスがこちらを気にかけるような視線を向けた。
なに……!?
どうしたのかしら?

「はい、はい、行けばいいんだろう。エレノア姫、また後ほどお会いしましょう!!」

「はい、そうですね。お待ちしております」

ーー二人共行っちゃったわね……。

「エレノア様はアンドレ様に気に入られたようですね……」

「…… えっ? そんなことはないですよ……」

「アンドレ様はアレクシス王子と同齢の従兄弟でルドルフ公爵家のご長男ですのよ。エレノア様にピッタリのお相手ではありませんか?」

「…… そ、それは…… そうですか……」

突然そんな話になるとは予想していなかったから返答に困ってしまうわね……。

「アンドレ様もとても素敵な方なんですよ。まぁ、でも…… アレクシスはもっと素敵ですけど。エレノア様もそう思われているのでしょう?」

「そ、そうですね…… 素敵な方ですね……」

ーーええ!!
もうそれはそれは素敵ですっ!!

「小さな頃のアレクシスは…… 女の子のように可愛らしかったのですよ」

「そうなのですか? 女の子のように…… それは想像できませんわね」

ーー小さな頃のアレクシス……。
きっと可愛かったでしょうね。
見てみたかったわ……リタ様が羨ましい。

「それが今では多数のご令嬢がアレクシスの虜になるほどに素敵な男性に成長してしまって…… ずっと私だけのアレクシスでしたのに……」

ん……!?
私だけのアレクシス……?
どういう意味かしら?

「エレノア様は私とアレクシスの関係をご存知ですか?」

「ええ、とても仲良しの幼馴染でリタ様はお姉さんのような存在だと聞いています」

「えっ…… それは誰から聞いたのですか?」

私……何か変なことを言ってしまったのかしら?

「キャロライン王妃からです……」

「そうでしょうね。 キャロライン王妃は何も知りませんもの。私達のことを……」

ーー私達のこと……?

「エレノア様」

「は、はい。なんでしょうか?」

「単刀直入にお伺いしたいことがあるのですが…… エレノア様とアレクシスはどういったご関係で?」

「………。」

ーー私とアレクシスの関係……?

関係と聞かれても………。
赤い薔薇の花のように凛とした立ち姿のリタ様が私を見据えていた。
私とアレクシスの関係……私達の関係……私達の関係はただのなんでもない関係……なの……?

私は萎れしまった花のように俯いた。

「私とアレクシスは小さな頃からずっと一緒でしたの。お互いになくてはならない存在で…… 私達は特別な関係なんです。アレクシスにもリタは特別だよって言われたこともあるのですよ!!」

ーー二人は特別な関係……特別と言われた……。
それって……それって……どういう特別なの?
幼馴染として?
姉弟のような存在として?
それとも……。

「私はずっとアレクシスの隣にいたんです!! だからアレクシスの隣にずっと一緒にいた私こそがアレクシスの妃として隣にいるのに相応しいと思いませんか?」

「そ、それは……」

「いくらお相手が隣国のお姫様だからといって無理に政略結婚させられてしまうのはアレクシスも気の毒かと…… そう思いませんこと?」

「………。」

そうね……私達はお互いに無理に縁談させらた者同士でお互いに特別な想いがあって縁談した訳でもないわ。
でも私は政略結婚とか関係なくアレクシスを好きになったの!!
だから言わないと……ちゃんとそう言わないと。

「わ、私は…… 私は……」

どうして……。
言葉が上手く出てこない。
アレクシスは私のことをどう想っていたの。
私はただの政略結婚の相手でしかなかった?
私とは何も無い関係で……リタ様とは特別な関係だった?
でも……私はアレクシスを……。

「そ、そうかもしれないですけど……でも……」

「そうでしょう!! アレクシスが気の毒だとそう思われるでしょう!! エレノア様が話がわかる方で良かったですわ。私達二人の特別な関係の意味をわかっていただけたようで……」

ーー二人の特別な関係の意味……それって……。

どうして私……何も言えなくなるの……何も言えない。
リタ様の赤く美しい瞳がまるで燃えたぎる炎のように私の心を飲み込んでいくよう。
私の心が……心が飲み込まれる……アレクシスへの想いを秘めた私の心が赤い炎に……飲み込まれていく。

「………。」

そう……そうなの……やっぱり二人はずっと……そういう特別な関係だったの。

私って……自惚れもいいところじゃないの。
アレクシスが私を好きかもしれないって本気で勘違いしていたわ。
アレクシスの胸元に挿してあった赤い薔薇の花も私の為に合わせてくれたものではなかったのよ。
リタ様の赤いドレスに合わせていたものだったのね。
私って本当にバカじゃない!!
なんてバカっ!!
大喜びしちゃって。
期待しちゃって。
そうよね……ちゃんと考えるれば分かることよ。
子供っぽい私なんかより、リタ様の方が赤いドレスも、赤い薔薇の花も、そして……アレクシスにもお似合いだわ。
こんなバカな勘違いして自分が嫌になる!!
一喜一憂して。
ファーストダンスを踊った後に勇気を出して想いを伝えようとまでしていたわ。
そんなことされてもアレクシスには迷惑なだけだったわね。
胸が……胸が締め付けるように痛くて息が苦しい。
息ができない。
もう、とてもここに立っていられそうにないわ。

私……本当に情けないわね……。

「リタ様…… 申し訳ございませんが、私…… 少し気分が優れませんから…… 部屋へと戻りたいので、これで失礼いたします」

「あらっ、それは大変ですこと!! 部屋でゆっくりとお休みなさらないと。この後ダンスがありますが…… アレクシスのお相手は私がいたしますので、ご心配なさらず!! ご体調が優れないのであれば仕方ないですものね。アレクシスにもそのようにお伝えしますわね」

「…… はい」

私……なんて意気地なしで、惨めなのかしら。
何も言えずにこの場から立ち去ることしか出来ない。
アレクシス……どうして……どうして……?
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