男性不信のお姫様と女性不信の王子様はカボチャ姫を愛す
カボチャ姫の初恋
逃げるようにして部屋へと戻って来てしまったわ。
私って……本当に情けないわね。
自分でもこの感情にどう対処すればいいものなのか分からないわ。
ーーアレクシス……どうして特別に想う人がいるのに私を誘ったりしたの?
一人で舞い上がっていた私がバカみたいじゃないの。
どうして私は恋に落ちたりしちゃったんだろう。
お父様とマリアのことを知った時に、私はこの先男の人を好きにならないって思っていたはずなのに……。
ーーそうよっ!!
騙されたのよ!!
あの眉目秀麗男に!!
遠路はるばる田舎の姫を呼びつけて、政略結婚を了承させ、ご自分はその後あのお色気が爆発しちゃってるリタ嬢と不貞三昧するって魂胆だったんだわ!!
これではお母様の二の舞じゃないのよ!!
クーーッ、、
悔し、悔しいーー!!
なんて不誠実でふしだらな男なのかしら!!
許すまじっ!!眉目秀麗男!!
でも……そんな男に惚れちゃった私は大バカ者よ。
なんだか……泣けてきちゃったわ……だって仕方ないじゃない……好きになってしまったんだもの。
惨め過ぎて……涙が……涙が止まらない。
もうダンスも赤い薔薇の花も大っ嫌いよ!!
ーーコンコン、
「エレノア様? お部屋にお戻りになられているのですか?」
ーーエマ……。
「ええ、少し気分が優れなくなってしまって……」
「入ってもよろしいですか?」
ダメよっ!!
今はダメなのよ!!
「私は大丈夫だから…… エマはブラッドと一緒に過ごしてちょうだい」
ーーエマにはブラッドと幸せな時間を過ごして欲しいわ。
「でも…… エレノア様のお体が心配です……」
「大丈夫よ!! 少し横になりたいし。一人にしてちょうだい」
こんなグチャグチャな私を誰にも見せれないわ。
エマにも心配を掛けてしまうもの……。
「そうですか……。では何かあればすぐにお呼び下さいね」
「ええ、ありがとう」
はーーぁ。
恋って……こんなにも苦しいものなのね。
もうすぐダンスの時間だわ。
私……とても楽しみにしていたのに。
アレクシスはリタ様と踊るのよね……。
そりゃ踊るわよ!!
愛し合っていれば当然よね。
私よりずっと前に出会っていて、私の知らないアレクシスをリタ様はいっぱい知ってる。
ついこないだ会ったばかりの政略結婚の相手である私とは違うわ。
ーーコンコン、
「エレノア!! エマから聞いたが体調は大丈夫なのか? 入るぞっ」
お、お兄さま……今は一人なりたいのに……。
「は、はい、どうぞっ」
ーーガチャッ、
「いやーー兄は我が妹が心配で……って、ど、どうしたんだっ!! その顔は…… 泣いていたのか?」
だから嫌だったのよ……。
「いえ…… 別に何も…… さっき目にゴミが入ってしまっただけです」
「もしや…… アレクシスの隣にいたご令嬢のことで気に病んでいるのか?」
ギクッ、、
お兄様って……どうしてこんなにいつも勘が鋭いのかしら?
「ちがいます!! 私は…… ただ気分が優れなかったので横になりたかっただけです!!」
「そうか…… だがエレノアに言っておくが、あのご令嬢とアレクシスは何もないさっ。あの二人を見ていればわかるよ。あれはご令嬢の方が一方的に熱を上げているんだよ」
ーーお兄様……。
「まぁ明日にはウェンスティール国に帰らねばならないから体調が悪いのであれば無理せずゆっくり休むといい。それでは、私はもう行くよ」
「はい……」
お兄様……失恋してお兄様に慰められる日がくるなんて思いもしなかったわね。
お兄様はあの二人は何もないと言うけど……。
私にはそう言うしかないわよね。
それに……慰めてもらって申し訳ないけど…。
お兄様にはなんの説得力も無いのよ!!
私の男性不信の一端を担っているお兄様の言葉なんてスルーよ!!
信じられるはずないじゃない!!
「ハアーー」
残念なお方よね……本当に。
それに……もし信じてしまって、それが違ったら……。
また傷ついてしまうもの。
信じなければ傷つくこともないわ。
そもそも私とアレクシスは恋人同士でもなんでもないもの!!
今想いを断ち切らなくちゃっ……。
これ以上傷ついてしまったら……私の心はきっと何年……いえ、何十年経ってもエマに拾い切れないほどに粉々に壊れてしまうわ。
もうアレクシスを想うのはこれで終わりにしなくては……終わりに……。
私の初恋だったのよ……アレクシス。