なかないでいいんだよ
恥ずかしくて俯いた私と、
またキーマカレーと向き合い始めたメロが視線を逸らしたのはほとんど同時だった。

「メロ」

「なぁーに」

「なんであんなとこに居るの」

「なんでって…フーゾクみたいなもんだろ?金以外の理由なんてない」

「メロのビジュならホストでもナンバーワンになれそうなのに」

「俺、お酒ダメなの」

「意外」

「それに」

「それに?」

「もっともっと、無理矢理にでも気狂わせなきゃやってけそうになかったから」

「…狂いたかったの?」

「まぁね。冷静になれる時間なんていらなかった。バカになって、ただ夢中で金を稼ぐロボットになりたかったんだよ」

「そっか…そんなにお金が必要だったの?」

「音にはカンケーないから気にしないで?」

「そう、だよね」

当たり前だ。

一晩だけの、一万円の関係。
私に話すメリットなんかない。

メロが引いた一線は
肉眼で視認できそうなくらい濃く見えた。
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