なかないでいいんだよ
急に大声を出した私を
メロは驚いて見つめたけれど
ぽん、って手のひらを優しく頭に乗せてくれた。

「分かってるよ、そんなこと。でもね、私の気持ちがそうなんだってだけ。私はこんなんだったの。だから失恋もした。私は私なんだから私でしかいられない。今の私の現状が、今は…全てなの。他の人がどうとかは知らない。生きたくても生きられない人もいるとかはもっと知らない!だからなんなのよ…。なんで知らない誰かの暮らしや命にまで責任を負わなきゃいけないの?じゃあだったら死にたくても…死ななくちゃいけなくても…その感情はただの悪なの?死ななきゃいけない時に生きろって言われ続けることは苦しいよ。なんにも無い中で生き続けることは怖いよ…」

体に、自分じゃない体温を感じた。

抱き締められている。

寂しそうな目をしていた猫…ううん、狼に。

鋭利な爪も牙も無い。
ふわりと優しく私を包み込んで
トントンって背中を撫でてくれている。

「死にたかったのか?」

「そこまで…大袈裟なものじゃない…でもただ怖かった…」

「うん」

「このまま、ずっとこうなのかなって思ったら怖かったの」

「うん」

「だからあの場所に行った。現実はもうたくさんだった。常識も理性もつまんないことだった。私…安全で平和な場所じゃなくったって自分が望んだ場所なら幸せだって、地獄でもいいって笑える人間になりたかった」

「音は、なんにも無くないよ」

「どうして?」

「俺を引っ張り出してくれた。涙を見せてくれた。苦しいんだって叫んでくれた。俺は、今ちゃんと″人″に戻れた気がした。音のおかげ。ありがとう」

メロの肩に額をつける。
メロの匂いが濃くなった。

誰かと繋がっていられることに
安堵することができる。

私の心は死んでいなかった。

声を押し殺して泣く私を
メロは黙って抱き締め続けてくれた。
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