なかないでいいんだよ
「金が必要なんだ」
「どれくらい?」
「沢山。沢山過ぎて、もう分かんないくらい」
「悪い人にでも追いかけられてるの?」
「逆だよ。いい人に渡す為に」
「どんな状況」
「彼女が病気なんだ。幼馴染でさ。先天的に心臓が悪くて、物心ついた頃にはもう入退院を繰り返してた。手術も何度も受けて、お見舞いに行くたびに小さい体をいっぱい管で繋がれてて。親にこっぴどく叱られることよりも、どんなホラー映画よりも、そんなあいつを見ることのほうがずっと恐ろしかった。あいつのそばにはいつもジッと死が待ち構えてたから」
「その子も…メロも、頑張ったんだね」
恋人がいる。
その事実を突きつけられて
たった数時間の関係性のくせに
一丁前に傷つく恋、に似た感情。
命の話をされてるのに
人間ってとことん自分よがりな生き物だ。
「頑張ったのはあいつだけだよ。俺はただジッとしてて、絶対にダメなのにあいつの前で弱音ばっか吐いてた。最低だよ、ほんと。でもさ、決まって目を細めて笑うんだ。″あんたが大丈夫だって信じてくれなきゃどーすんの″って。小さい手で俺の手を握ってさ。恋人になったのは中学に上がった頃だったけど、すごく自然なことだった。それ以外の選択肢なんかなくて、こいつの為に一生を捧げて生きようって、誓いなんか立てなくてもそれが当たり前だった」
「今…どうしてるの…」
「体が成長するごとに嘲笑うみたいに心臓は悪化していって、一年くらい前からはもうずっと入院してる状態。いよいよかって言われ始めた頃にアメリカで名医が見つかってさ。もしかしたら手術を受けられるかもしれないってなって、希望と一緒に莫大な資金問題がのしかかった。ご両親には正直もうそんな余裕、どう頑張っても無いことはとっくに気づいてた。夢も希望も、それをみる為の命が金に奪われる。そんな苦しいこと、あいつにだけは知ってほしくない。だから俺は半年前から店で働き出した。もっと金になることならあるんだろうけど…それでも我武者羅になってなんでもしたよ。全然足りないけどさ、これくらいしかできなかった」
「どれくらい?」
「沢山。沢山過ぎて、もう分かんないくらい」
「悪い人にでも追いかけられてるの?」
「逆だよ。いい人に渡す為に」
「どんな状況」
「彼女が病気なんだ。幼馴染でさ。先天的に心臓が悪くて、物心ついた頃にはもう入退院を繰り返してた。手術も何度も受けて、お見舞いに行くたびに小さい体をいっぱい管で繋がれてて。親にこっぴどく叱られることよりも、どんなホラー映画よりも、そんなあいつを見ることのほうがずっと恐ろしかった。あいつのそばにはいつもジッと死が待ち構えてたから」
「その子も…メロも、頑張ったんだね」
恋人がいる。
その事実を突きつけられて
たった数時間の関係性のくせに
一丁前に傷つく恋、に似た感情。
命の話をされてるのに
人間ってとことん自分よがりな生き物だ。
「頑張ったのはあいつだけだよ。俺はただジッとしてて、絶対にダメなのにあいつの前で弱音ばっか吐いてた。最低だよ、ほんと。でもさ、決まって目を細めて笑うんだ。″あんたが大丈夫だって信じてくれなきゃどーすんの″って。小さい手で俺の手を握ってさ。恋人になったのは中学に上がった頃だったけど、すごく自然なことだった。それ以外の選択肢なんかなくて、こいつの為に一生を捧げて生きようって、誓いなんか立てなくてもそれが当たり前だった」
「今…どうしてるの…」
「体が成長するごとに嘲笑うみたいに心臓は悪化していって、一年くらい前からはもうずっと入院してる状態。いよいよかって言われ始めた頃にアメリカで名医が見つかってさ。もしかしたら手術を受けられるかもしれないってなって、希望と一緒に莫大な資金問題がのしかかった。ご両親には正直もうそんな余裕、どう頑張っても無いことはとっくに気づいてた。夢も希望も、それをみる為の命が金に奪われる。そんな苦しいこと、あいつにだけは知ってほしくない。だから俺は半年前から店で働き出した。もっと金になることならあるんだろうけど…それでも我武者羅になってなんでもしたよ。全然足りないけどさ、これくらいしかできなかった」