なかないでいいんだよ
自宅の近くのコンビニに立ち寄った。
ペットフードの棚の前。
これとおんなじ猫缶が
私の部屋にはまだ鎮座している。
隣の棚。
メロがおいしそうに頬張っていたキーマカレーは無くなっていて
あったはずの場所にはハヤシライスのレトルトパックが陳列されている。
どこにも居ない。
どこにも無い。
メロが居た証拠が。
私の部屋の猫缶に触れたメロの面影が
ふっと消えてしまった感覚がした。
「ありがとうございましたー」
なんにも買っていないのに
退店する私の背中に向けてスタッフさんの声が飛んできて
なんだか申し訳なさに襲われる。
俯いて外に出た私の頭頂部に
やわらかい声が降ってきたのは
その時だった。
「おと」
「…え」
風にふわふわと揺れる
やわらかそうな襟足。
上げた口角から覗く八重歯。
「……メロ」
「ニャ?」
「ふざけないでよ、もう…」
涙ぐむ私に小首を傾げて
メロはやさしい目をして笑った。
「猫、似合わないよ。狼でしょ…」
「そうかも」
自分でも意識しているのか
毛先をくるんって指先に巻きつけて
微笑む愛おしい目尻。
ずるい。
ペットフードの棚の前。
これとおんなじ猫缶が
私の部屋にはまだ鎮座している。
隣の棚。
メロがおいしそうに頬張っていたキーマカレーは無くなっていて
あったはずの場所にはハヤシライスのレトルトパックが陳列されている。
どこにも居ない。
どこにも無い。
メロが居た証拠が。
私の部屋の猫缶に触れたメロの面影が
ふっと消えてしまった感覚がした。
「ありがとうございましたー」
なんにも買っていないのに
退店する私の背中に向けてスタッフさんの声が飛んできて
なんだか申し訳なさに襲われる。
俯いて外に出た私の頭頂部に
やわらかい声が降ってきたのは
その時だった。
「おと」
「…え」
風にふわふわと揺れる
やわらかそうな襟足。
上げた口角から覗く八重歯。
「……メロ」
「ニャ?」
「ふざけないでよ、もう…」
涙ぐむ私に小首を傾げて
メロはやさしい目をして笑った。
「猫、似合わないよ。狼でしょ…」
「そうかも」
自分でも意識しているのか
毛先をくるんって指先に巻きつけて
微笑む愛おしい目尻。
ずるい。