なかないでいいんだよ
「ありがとう。どうにか生きていくよ」

「うん」

「音は?どうするの」

「どうにか生きていくよ。私も。明日卒業したら。社会人になって。それからゆっくりとしたいこと見つけていこうかなって」

「落ち込まない?もしもなかなか見つかんなかったら」

「落ち込むと思うよ。思い通りにいかなかったら、それは誰だって。落ち込みながらどうにか許せそうな自分をこじつけて生きてる。私は忘れない。誰かの為に自分を殺して、心が死んでも誰かの命を救おうとしてた人が居たんだってこと。だからせめて私は、せめて、自分を守れるくらいの人にはなりたい。もしもまた″誰かさん″に出逢った時に、泣きそうな目をしていたら守ってあげられる私になれてるように」

「誰かさんって誰だろうなぁ」

「さーあ?」

「就職、どこに決まったの」

「銀行だよ。うち、商業高校だしね。そういうとこ多いの」

「俺も音も、金ばっかだな」

「あはは。やだなぁ、それ」

「あー、そうだ」

メロがポケットから財布を取り出して
中から抜いたお札を私に差し出した。

「なに、これ」

「返すよ。あの日の一万円」

「なに言ってんの。あれはレンタル料で…」

「あの日の夜を、そういう夜にしたくないって俺のわがまま。こんなものにあの夜の価値を決められたくない」

「メロ…」

「あの日のことをお守りにさせてよ。これから何があっても、同じ世界のどこかで自分を好きになろうって懸命に生きてる女の子が居るんだってこと。俺には音の未来を守ってあげることは今はできないけど俺もどうにか生きていくよ。だから音も、生きて」

″今は″と言ったメロの言葉に
どこか期待してしまう浅はかな自分。

そんな自分すらも弱かったねって
いつかの再会の日に
笑い飛ばせる私達になろう。
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