🌊 海の未来 🌊 ~新編集版~
 少しして、海利(かいり)社長が部屋に入ってきた。
 すかさず立ち上がって頭を下げると、緊張がピークに達した。
 しかし着席を促す穏やかな声が聞こえたので顔を上げると、意外にもにこやかな表情が目に飛び込んできた。
 
「ご苦労さん」

 それは予想外の言葉だったので慌てて「なんの成果も持ち帰ることができず、申し訳ありませんでした」と頭を下げたが、「君のせいじゃないよ」と何故か嘉門部長が(かば)ってくれた。

 えっ? 
 どういうこと?
 
 面食らって部長の顔をまじまじと見てしまったが、ふと社長の視線に気づいて慌てて顔を戻した。

「本当に申し訳ありませんでした」

 今度は体を二つ折りにして謝った。
 するとテーブルに何かを置く様子が感じられたので顔を上げると、社長の手の先には見覚えのある書類があった。
 
「君の報告書だけど」

 部長に送信したアラスカ出張の報告書だった。

「ここのところだけど」

 下線が引かれた部分を社長が指差した。
 そこに記した文言はよく覚えていた。
『ビジネスモデルの転換。薄利多売から付加価値への転換』

「偉そうなことを書いてしまって、申し訳ありません」

 社長から叱責を受ける前にもう一度謝った。
 しかし、「そうじゃないんだ」という声と共に社長は軽く首を振った。
 そしてにこやかな表情になった。
 
「興味深く読ませてもらったよ」

 社長が身を乗り出した。

「詳しく聞かせてくれないか」

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