🌊 海の未来 🌊 ~新編集版~
「意見というわけではないのですが……」

 机の上の議事録に目を落とした。

「この会合では多くの意見の違いに直面しました。特に第2回は対立と呼んでもおかしくないほどの激しいやり取りがありました。しかし」

 第3回の議事録を持ち上げた。
 
「あるキーワードに出会ってから、出席者の気持ちが一つの方向にまとまってきたのではないかと思います」

 視線がこちらの方に向いた。
 
「海利さんのご発言からです。特に、海利さんがご紹介された女性社員の言葉が大きな転換点を呼び起こしました」

 社長に向けていた視線が自分に向いた。
 
「持続可能な幸福循環というキーワードです。『魚を主役として、漁業者と流通業者、消費者が共に幸せになれる取組ができれば持続可能な幸福循環を創り上げることができる』という考え方に、私は心が振るえるほど感動しました」

 すると、会場の視線が一気に集まったように感じた。
 それだけでなく、とんでもない発言が粋締の口から飛び出した。
 
「持続可能な幸福循環というキーワードを発案された幸夢美久さんに一言お願いできればと思うのですが、いかがでしょうか」

 間を置かず会場から拍手が起こった。
 それもかなり大きなものだった。
 
 えっ? 
 わたし? 
 えっ?
 
 心臓が口から飛び出しそうになったので、思わず手で押さえた。
 と同時に横にいる海利社長に救いを求めた。
 しかし社長はわたしの背中を押した。
 明らかに発言を促していた。
 
 えっ、
 そうじゃなくて……、
 
 口をパクパクしていると、「幸夢さん、一言お願いします」と事務次官から正式に促された。
 もうどうしていいのかわからなくなって立ち上がるしかなかったが、「自己紹介」と海利社長が小声で導いてくれた。

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