🌊 海の未来 🌊 ~新編集版~
「海と魚は危機に瀕しています」

 ゆっくりと会場を見回した。
 
「地球は余りにも大きすぎて、海は余りにも広すぎて、地球や海に限界があるとは誰も考えませんでした。しかし、地球も海も有限なのです。無限ではないのです。私たちはそのことを認識しなければなりません。それだけではなく、人間の身勝手な行動によって地球も海も悲鳴を上げ始めていることをしっかりと理解しなければなりません。そしてそれは魚も同じです。広い海から無尽蔵に湧いてくるような錯覚をしていましたが、そうではありませんでした。多くの魚に絶滅の危機が迫っているのです」

 そこで表情が変わり、毅然とした口調になった。
 
「『皆さんは暮らし方を変えられますか?』と源長官は問われました。その通りなのです。今まで通りのことを続けていけば、環境悪化や水産資源の減少を止めることはできません。私たちは考え方や行動を変えなければならないのです」

 顎がぐっと引かれて、声に力が入った。
 
「『目先の利益を求める者は将来の利益を失う』という言葉があります。私たち人間は目先の利益を追求する余り、愚かにも乱獲という間違いを犯してきました。その結果、水産資源の枯渇(こかつ)という危機を作り出してしまったのです」

 そして意志を放つような揺るぎない目になり、「私たちは同じ間違いを繰り返してはいけません。間違いから学び、その学びによって考え方や行動を変えなければならないのです。今こそ行動を起こす時なのです」とテーブルに置いた両手を握りしめた。「私たちは、母なる地球、母なる海に感謝し、海からの贈り物である魚に感謝しなければなりません」

 話し終えた豪田が谷和原に目で合図をすると、彼は職員に指示を出し、スクリーンにスライドが映し出された。
 
《持続可能な幸福循環》
 ・地球環境、海洋環境を守り、すべての生き物と人間の共存共栄を図る

《持続可能な漁業の実現》
 ・大前提……魚は資源であり保護しない限り絶滅の危険性がある
 ・大原則……これ以上の乱獲は止めなければならない

① 科学的資源調査に基づく魚種別漁獲枠の設定
② 個別割当制度の導入
③ 譲渡可能個別割当制度の早期検討
④ 産卵海域での漁の禁止
⑤ 一網打尽漁法の禁止
⑥ 海上投棄の禁止(魚、漁網、その他一切の物品)

豪田はスクリーンの前に立ち、宣言をするように大きな声を出した。

「私たちの手で持続可能な幸福循環を創り上げていきましょう」

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