🌊 海の未来 🌊 ~新編集版~
「選択と集中、そして、付加価値」

 話にじっと耳を傾けていた社長が、頷きながら呟いた。

「付加価値のある物だけに絞り込む……」

 ぼそっと言った嘉門部長が思案気な表情を浮かべたが、それに構わずきっぱりと告げた。

「今の状態はこれからもずっと続きます。世界の人口は増加し、各国の国民所得が上がっていけば良質なたんぱく質である水産物の需要は増大していきます。しかし、」

 声を強めようとしたが、その先を言う前に社長に引き取られた。
 
「天然の漁業資源は減少し、養殖で補うとしても限界がある」

「その通りです。その結果、水産物の獲得競争は更に激化します。特にスーパーのチラシに載る価格帯の水産物は奪い合いになります」

 一刻の猶予(ゆうよ)も許されない状況なのだ。
 だから、焦る気持ちを抑えながら努めて冷静に「薄利多売は大手の水産会社に任せて、我が社は違う道へ行くべきではないでしょうか」と提案した。
 
 社長も部長も無言だったが、ネガティブな表情は浮かんでないように思えた。
 そこで、出張中最も印象に残った言葉を伝えることにした。
 それはアラスカ魚愛水産の社長、シュゴーシン・サルマンが発したものだった。

「サルマン社長はこう言われました。『魚は危機に瀕している。そのすべての原因は乱獲だ。それは、魚を商品としてしか見ない愚か者の仕業だ。嘆かわしい』と。そして、『魚は商品ではない。魚は資源だ』と。更に、『水産会社は魚の命を扱う会社なのだから、自然の恵みに感謝して、自然が育む命を尊ばなければならないのだ』と」

 社長がゆっくり大きく頷いた。
 
「この言葉の中に我が社の将来があるような気がします」

 声に力を込めて締めくくった。
 
「魚を主役として、漁業者と流通業者、そして、消費者が共に幸せになれる取組が必要です。今すぐ着手しなければならないと思います。それができれば、持続可能な幸福循環を創り上げることができます」

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