🌊 海の未来 🌊 ~新編集版~
 社長室でのやり取りをすべて話すと、海野は右手でメガネの位置をほんの少し動かしたあと、静かに声を発した。

「それで、社長はなんて言ったんだい?」

 わたしは社長の言葉を思い出しながら忠実に再現した。

「『我が社が生み出せる付加価値、そのキーワードが持続可能な幸福循環だとすれば、どうアプローチすればいいのか、具体的に提案して欲しい』って」

「そうだろうな。で、具体案はあるのかい?」

 頷きたかったが、それはできなかった。

漠然(ばくぜん)としたイメージだけなの。魚も漁師も流通業者も消費者も、みんな幸せにできたらいいのにって。魚が笑えば漁師も嬉しい、流通業者も消費者も嬉しい、そんな関係を創りたいなって」

「魚が笑えば皆嬉しい、か……」

 海野が遠くを見るような目をした。
 何かを考えているような目だった。
 その目がこちらに向けられると、小さく頷いてから唇が動いた。
 
「創ればいいんだよ。創ろうよ」

 確信に満ちた口調に思わず反応した。

「創りたい。本当に創りたいの。海野さん、力を貸して」


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