🌊 海の未来 🌊 ~新編集版~
 全員の好物だけあってすぐに皿から〈なめろう〉が消えた。
 しかし、名残(なごり)を惜しむ間もなく、「じゃじゃじゃじゃ~ん」と母が奏でるファンファーレと共にもう一つの大好物が運ばれてきた。
 さんが焼きだった。
 
「お母さん、愛してる」

「私も愛してる」

 父がふざけて言った。

「もう~」

 いい加減にしなさいというふうに父の手を振り払ったが、顔は嬉しそうだった。

「熱いうちに召し上がれ」

 ポン酢を垂らして、小さなスプーンで味わうように食べた。

「美久も飲むか?」

 父が立ち上がってグラスを持ってきて日本酒を注いでくれた。
 もちろん母にも。
 
「乾杯!」

 父の発声でグラスを掲げて口に運ぶと、辛口の純米吟醸酒が体の隅々まで染み渡った。
 すると、どこかに残っていた社長面談の緊張がゆるゆると解け始め、海野が発した言葉が蘇ってきた。
 
 できるかもしれない!
 
 不意に、そう思った。


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