🌊 海の未来 🌊 ~新編集版~
「あなたも知っている店。和食フレンチの食楽(しょくらく)喜楽(きらく)

「えっ? あの一つ星レストランの?」

「そう。このまえ美久の誕生日に3人で行った時、ドアのところにスタッフ募集の紙が貼ってあったのを見つけたの。それでね、」

 ふふふっと笑って、思い出すように言葉を継いだ。

「シェフにね、私でも調理アシスタントってできますか、って訊いたら、奥様だったら私の代わりができますよって、お上手を言うのよ」

「で?」

「冗談じゃなく本気で働きたいことを伝えたの」

「で?」

「『それでは店が休みの時に奥様の得意料理を作っていただけますか?』って言われたから、『なめろう』と『さんが焼き』をシェフの目の前で作ったの」

「で?」

「『トレビアン』だって。魚の捌き方、味噌の合わせ方、そして、叩き方、焼き方、すべてプロ級だって」

「ふ~ん」

「信じてないでしょ」

「そんなことないけど……」

 とっさには弱い否定しかできなかったが、よく考えると毎日毎日食卓に出てくる手料理は(こと)(ほか)おいしかった。

「確かに、君の料理は最高だよ」

 帽子を脱ぐ真似をすると、〈ふふふっ〉と笑って言葉を継いだ。

「『いつでも来てください』って言われたんだけど、すぐには言い出せなくて。でも、あなたが会社を辞めるって言うから〈今言わなきゃ〉って思ったの」

「そうか……」

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