🌊 海の未来 🌊 ~新編集版~
 一皿目が出来上がった。
『酸味フルーツ添えジェノベーゼ風甘鯛のタルタル』
 二皿目は『甘鯛のポワレ、皿真出スペシャルソース添え』
 甘鯛のアラから作ったフュメ・ド・ポワソンにウニとシャンピニオンを加えた特製ソースがサクサクの皮と柔らかい身にマッチして絶妙の食感を引き出す一品。
 そして三皿目は『特製スウィートパスタ、フレンチ風』
 甘鯛と甘海老に甘橙(オレンジ)甘蕉(バナナ)を入れたホワイトソースを絡めて自然の甘みを引き出したフレンチパスタ。
 これに食後の飲み物とデザートをつけると税込み5,980円のコースが出来上がる。
 そのことを告げると、「5,980円ですか?」と優美がオウム返しをした。
 
「高い?」

「いいえ、逆です。予想よりかなり安いので……」

 優美は〈そこまでしなくても〉というような表情を浮かべていたが、皿真出はそのことに感謝しながらも小さく首を振った。

「できるだけ多くの人に食べていただきたいんだ。だから、高すぎてはだめなんだ。本当は5,000円を切る価格で出したいのだけど、それでは採算が取れない。泣く泣く5,980円なんだよ」

 冗談めかしに両手の人差し指を目の下に当てて泣き真似をすると、優美が突然「ありがとうございます」と頭を下げた。
 
「えっ、ありがとうって……」

 戸惑っていると、微笑みが返ってきた。

「お客様に代わって御礼を申し上げました」

「あっ……」

 思いがけない言葉にちょっと感動した。
 それだけでなく、素晴らしいスタッフと働ける喜びがじわ~っと込み上げてきた。
 
「こちらこそ、ありがとう」

 皿真出は優美より深く頭を下げた。


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