🌊 海の未来 🌊 ~新編集版~
 レコード棚を探すと、すぐに見つかった。
『つづれ織り』。原題は『Tapestry』
 ジーンズ姿で窓際に座る彼女のソバージュが光って、優しい眼差しがこちらを見ている素敵なアルバム・ジャケット。
 それを広げると、ヘッドフォンをした真剣な表情の写真がコラージュされているものが目に入った。
 録音時の写真だろうか、それをしばらく見つめてから、ビニール製の内袋に収納されたレコードを慎重に取り出した。
 
 この瞬間がたまらない。
 取り出す時に漂ってくる独特の香りにウットリしてしまうのだ。
 これから始まる素敵な体験にワクワクしながらレコード盤をターンテーブルに乗せた。
 
 ミュート(消音)状態にして針をレコード盤に落とし、溝をなぞるのを確認してミュートを解除すると、B面1曲目の『きみの友達』が始まった。
 ジェイムス・テイラーと違ってピアノの弾き語りで、彼女のハスキーな歌声が耳に届くと一瞬にして心を奪われた。
 
 その曲が終わると急に2人のライヴが見たくなった。
 本棚を探すと、これもすぐに見つかった。
『LIVE AT THE TROUBADOUR(トルバドール)
 キャロル・キングとジェイムス・テイラーが2010年に共演したライヴ。
 
 針をレコードから上げてアルバム・ジャケットに収納してから、DVDをセットして再生ボタンを押した。
 イントロダクションに続いて2人の姿が映し出されると、目が釘付けになった。
 ジェイムス・テイラーがストールに腰かけてアコースティック・ギターを弾き始めると、キャロル・キングがピアノで伴奏する、そんなとても自然な感じで始まったステージに吸い込まれていき、やがて心地良い温もりの中にいるように感じてきた。
 
 交互に自作曲を歌ったあと、昔彼らと一緒に演奏したバンド仲間が登場した。
 そして、次々に飛び切りの名曲が演奏された。
 2人のハーモニーが始まると、会場からため息が出た。
 62歳になっても若い頃と同じように伸びやかな声で歌うジェイムス・テイラーと、68歳になっても昔と変わらないハスキーな声で情緒たっぷりに歌うキャロル・キング、なんて素敵なミュージシャンなのだろう。
 2人の声にしばし酔いしれた。
 彼らを見ながら、音楽を聴きながら、幸せな時間が過ぎていった。
 
 あっ、もうすぐ始まる、『きみの友達』

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