🌊 海の未来 🌊 ~新編集版~
「ただいま」

 玄関の電気を付けながら居間の方へ向かって声をかけたが、返事はなかった。

「お父さん?」

 音楽が聞こえるのに、父の声は返ってこなかった。
 母と顔を見合わせたあと、そ~っと足を忍ばせて廊下を歩いて居間の扉を開けると、ソファにもたれかかって……父は寝ていた。
 とても幸せなそう顔だった。
 また顔を見合わせると、母が近寄って寝顔を覗き込んだ。
 
「かわいい」

 顔が綻ぶと同時に母はコートを脱いで、父の体を包むように掛けた。
 すると、父は幸せそうな顔になって、〈むにゅむにゅ〉というような声を発した。
 寝言だった。
 
「この人たちと共演している夢でも見ているのかしら」

 画面を見ながら母が笑った。

「このままにしておいてあげましょう」

 灯りだけ消して居間のドアをそう~っと閉めた。

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