🌊 海の未来 🌊 ~新編集版~
        🌊 漁業連盟 🌊 

『日本漁業の未来研究会』第2回会合が始まった。
 今回は第1回の出席者に加えて漁業連盟の代表が出席していた。
 
「海は漁師のものだ。何人(なんびと)たりともその権利を侵すことは許されない。海のことは我々で決める。お上に指図される言われはない。いわんや、NPOだのコンサルタントなどの戯言を聞く筋合いはない」

 漁業連盟理事長の権家強男(ごんげつよお)濁声(だみごえ)で言い放った。
 そして、「前回の議事録を読んだが、取出さんの言うことがまったく正しい。漁師は大漁旗をはためかせて帰港するのが一番幸せなんだ。獲りたい時に獲れるだけ獲るのが漁師の醍醐味なんだ」と語気を強めた。
 すると〈我が意を得たり〉というように取出が大きく頷いたが、それに同調する人は誰一人なく、すぐに反対の声が上がった。
 
「海は漁師のものですか?」

 NPO法人美海代表の大和大志だった。

「当然だろ。昔から海は漁師のものと決まっているんだ!」

 権家が大きな声で叫ぶと、取出が「そうだ、そうだ」と相槌を打った。

「本当にそうでしょうか?」

 大和は冷静な口調で反論した。

「海は国民のものです。そして、人類全体の財産です」

 真守賀と粋締が大きく頷いたが、権家は〈冗談じゃない〉というような顔で「ちっ」と舌打ちをした。
 それを見て、大和が顔をしかめた。
 真守賀が〈これ以上我慢できない〉というような表情で手を上げ、強い口調で権家に迫った。
 
「漁業連盟が言っているのは組織を守ることだけじゃないか。組織の権利を守りたいだけなんだ。そうでしょう。違いますか? 既得権が日本の漁業をダメにしているんだよ。いい加減に目を覚ましなさいよ」

 真守賀と権家が睨み合い、会場に緊張が走った。
 それを収めようと大和が真守賀の袖を引っ張ったが、険しい表情が緩むことはなかった。
 しかし、もう一度袖を引っ張るとそれが効いたのか、目つきが少し柔らかくなり、口調も丁寧なものに変わった。

「失礼な言い方になったかもしれません。そうだとしたら謝ります。申し訳ありません。しかし、よく考えていただきたいのです。全国各地の漁業連盟の経営はどうなっていますか? 利益は出ていますか? 出ていないですよね。半分以上が赤字なんじゃないですか。もうそろそろ現実から目を逸らすのを止めましょうよ」

 そして落ち着いた声で、しかし断固とした口調で言い切った。

「魚がいなくなったら私たち全員の未来はないんですよ」

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