🌊 海の未来 🌊 ~新編集版~
「獲る側だけでなく、売る側の意識も変えなくてはいけないと思います」

『さかなや恵比寿さん』のオーナー、差波木(さばき)漁太(りょうた)だった。

「私の店では持続可能性の高い漁法で獲った魚の仕入れを優先しています。一本釣りや延縄漁で獲った魚が最優先なのです。逆に海底を砂漠のようにしてしまう底引き網漁や1年未満の幼魚まで捕獲してしまう巻き網漁で獲った魚の仕入れは優先度を下げています。しかし、大手の流通業者は〈どういう漁法で獲った魚なのか〉ということに余り関心が無いように思います。環境に優しい漁獲方法なのか、環境を破壊する漁獲方法なのか、そういうことに意識が向いていないのです。それよりも、いかに安く仕入れて安く売るかということばかり考えているように思います」

 そしてチラシのようなものを掲げた。
『お魚のおはなし』という題がついていた。

「毎月1日にお客様にお配りしています。今が旬の魚とその調理法がメインですが、資源量が増えている魚と減っている魚のこともお知らせするようにしています。また、自然環境の変化や海洋汚染の情報も載せています。一介の魚屋が何故そんなことまで、とお思いでしょうが、これは我々がやらなくてはいけない使命だと思っているのです。何故なら、流通業者はお客様と接する唯一の存在だからです」 

 そこで差波木は海利に目を向けた。

「海利さんが午前中にお話しになった『水産物の持続可能性が閉ざされることになったら人類に未来はない』という言葉はとても重い意味を持っています。今こそ、この言葉を真剣に受け止めなければならないと強く思っています」

 それを受けて海利は敢えて立ち上がった。

「ありがとうございます。水産物の持続可能性をすべての関係者が真剣に考える時期に来ていると思います。漁業者、流通業者、消費者、そして、行政、そのすべてです。最後に、弊社の女性社員の言葉を紹介させて下さい。彼女はこう言いました。『魚を主役として、漁業者と流通業者、消費者が共に幸せになれる取組ができれば持続可能な幸福循環を創り上げることができる』と」

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