🌊 海の未来 🌊 ~それは魚の未来、そして私たちの未来~    【新編集版】
 部長が連れて行ってくれたのは、ちょっと高級そうな板前割烹だった。
 カウンターではなく半個室に通されたのだが、落ち着いた照明が店の品格を表しているように感じた。
 
 出された料理も品格通りだった。
 お通し、椀物、造りと順番に出てくる料理はどれも美味しいだけでなく、見た目も楽しませてくれる繊細な盛り付けだった。
 
 部長は一切仕事の話をしなかった。
 ひたすら料理を愛で、料理人の技を褒め、食材についての蘊蓄(うんちく)を傾けた。
 
 その間、(もっぱ)ら頷き役を務めていたが、部長の箸と口が止まった時、それは突然弾けてしまったというか、胸に納めていた疑問が口を衝いて出てしまった。

「なんで『アラスカへ飛べ!』って言われたのですか? 本気で契約できると思っていらっしゃったのですか?」

 ビールが日本酒に変わって少し酔いが回っていた。
 語気が強かったのを懸念してか、海野がブラウスの袖を引っ張った。
 
「だって……」

 嘉門部長は何も言わずお猪口の酒を飲み干した。
 酒を注ごうとすると、それを手で制して自分で酌をし、2人のお猪口にも酒を注いだ。
 そして、「若い頃……」と言いかけてまた飲み干し、手酌で注いだ酒に視線を落としてから懐かしそうに話し始めた。

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