🌊 海の未来 🌊 ~新編集版~
        🍴 海野 🍴 
 
 アラスカ魚愛水産と大日本魚食、そして、さかなや恵比寿さんホールディングスの3社契約の書類を作成し、それぞれの会社の承認を得、正式な契約が締結できたのは、3か月後のことだった。
 契約締結後の週末、「お祝いをしよう」と言って海野がディナーに招待してくれた。
 
「おめでとう」

 海野がグラスを上げた。
 シャンパンの繊細な泡が弾けていた。
 
「ありがとう」

 契約が成立した高揚感と安堵とそれ以外の何かが入り混じったふわふわと浮くような不思議な感覚の中にいた。
 それは、この店のせいでもあった。
 海野が連れてきてくれた店は、なんと食楽喜楽だったのだ。
 それに、土曜日の12時半とあって、店は満席だった。
 
「ここの料理はうまいよ」

 海野が自慢げに言ったが、どう反応したらいいかわからず、躊躇いがちに「このお店、家族でよく来るの」と告げると、〈なんだ、知っているのか〉というような表情になったが、更に、「それに、母が働いているの」と告げると、「えっ!」と海野が椅子からずり落ちそうになり、すぐに店内を見回し始めた。
 
 その様子がとてもおかしかったので笑っていると、「あとで紹介して。ご挨拶したいから」と真剣な表情を向けられた。
 
 その後は、これから次々と出てくる料理の話になった。
 彼が予約していたのは『シェフのお任せコース』で、メインの食材は宮城県産のギンザケだという。
 
 彼が「楽しみだね~」と視線を厨房の方に向けた時、アミューズが運ばれてきた。
 色鮮やかな『トロピカル・サーモン・マリネ』
 花弁が開いたような可愛いガラス容器に、ピンク色のサーモンと黄色のパプリカとパイナップル、黄緑色のメロンの角切りが宝石のように散りばめられていた。
 
「甘酸っぱくておいしい」

 ライムの酸味がとてもいいアクセントになっていた。
 
「シャンパンにも合うね」

 海野がグラスをアミューズのガラス容器に当てる振りをした。
 
 前菜は『サーモンと季節野菜の彩りサラダ』だった。
 サーモンの両面にゴマをまぶして焼き色をつけ、それを取り囲むように季節野菜が彩りを添えている。
 アスパラガス、アーティチョーク、エリンギ、グリーンピース、ビーツにも火が通され、オリーブオイルと塩・コショウでシンプルに味つけられていた。
 
「焼き野菜のサラダって初めて。ゴマの風味がしてサーモンも最高」

「それに、これなら野菜をいくらでも食べられそうだね」

 シャンパングラスが空になった海野は、白ワインを注文した。
 
 メインが出てきた。
『焙りサーモン・ガーリック風味とサーモン・リエット。バゲット添え』
 二つの味のサーモンをバゲットに乗せていただけるようになっていた。
 
「香ばしい味がバゲットに合うわ」

「リエットって初めてだけど、滑らかでおいしいね」

「本当。バターとサワークリームがサーモンとマッチして、う~ん、なんとも言えない」

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