🌊 海の未来 🌊 ~新編集版~
 コーヒーとデザートが終わったところで、シェフが顔を出した。
「いかがでしたか?」
 海野はさっと立ち上がり、「最高でした。本当に素晴らしかったです」と満面に笑みを浮かべた。
 それに満足そうな頷きを返したシェフは、さりげなく椅子を引き、座るように促した。
 
「美久さんは気に入っていただけましたか?」

 すぐに笑みを返した。
 そして、「また今日も至福の時間を過ごさせていただきました」と両手を膝に置いて頭を下げた。
 するとシェフも軽く頭を下げて、にこやかな声で「優美さん、いや、お母さんがほとんど作ったのですよ」と微笑んだ。
 
「えっ?」

「私はちょっとアレンジしただけなのです」

 そして、シェフが振り返って厨房に声をかけた。
 
「優美さん、こちらに来ませんか」

 客席と厨房を仕切るレースのカーテンから母が顔を出すと、シェフが手招きをした。
 恥ずかしそうな顔で近づいてきたので海野を紹介すると、「美久がいつもお世話になっております」と深々と頭を下げた。
 
「いえ、こちらこそ」

 海野が急に立ち上がろうとしたので、椅子が倒れそうになった。
 
「あっ、すみません」

 椅子を手で支えたシェフに頭を下げ、母にも頭を下げた。
 いつも冷静沈着な海野らしくなかった。
 でも、なんか、可愛く感じた。

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