🌊 海の未来 🌊 ~新編集版~
 帰国して家に直帰したが、ベッドに入ってもうつらうつら(・・・・・・)するだけでよく眠れなかった。
 時差のせいもあるが、目を瞑ると部長の顔が浮かんできて、深い眠りに入るのを邪魔された。
 眠った感じがほとんどしないまま朝を迎えた。
 
 重い体を引きずって台所へ行くと、母親が朝食の支度をしていた。
 テーブルの上にはご飯とみそ汁と漬物、それに空の皿が置かれていた。
 
 フィッシュロースターから皿に移されたものを見てぞっとした。
 鮭の塩焼きだった。
 見た瞬間、食欲がなくなった。
 朝早く会議があるからと嘘を言って、何も食べずに家を出た。
 
 駅のホームは込んでいた。
 人身事故で電車が遅れているらしい。
 やっと来た電車は超満員だった。
 鮭の塩焼きに人身事故に超満員……、
 イヤ~な予感がした。
 案の定、お尻を触られた。
 一瞬体が固まったが、泣き寝入りするつもりはなかった。
 よろけた振りをして真後ろの男の靴を思い切り踏んでやった。
 ピンヒールでグサッとやってやった。
 呻き声が聞こえたので、骨を折ることは出来なかったとしてもかなりのダメージを与えたはずだ。
 ざまあみろ! 
 心の中で罵倒(ばとう)して、次の駅で車両を変えた。
 
 最寄り駅で降りて歩き出すと、足元が何か変だった。
 ピンヒールがぐらぐらしていた。
 さっき痴漢男の靴を踏み付けた時に痛めたのかもしれない。
 
 あ~、とことんついていない。
 お気に入りのハイヒールなのに……、
 
 一気にテンションがマイナス100になった。
 
< 6 / 111 >

この作品をシェア

pagetop