🌊 海の未来 🌊 ~新編集版~
        🍴 飲食コーナー 🍴 

 アラスカ魚愛水産の塩鮭が〈さかなや恵比寿さん〉の各店頭に並んだ。
 濃い赤色の切り身が売場いっぱいに並ぶと、なんとも華やかで、買わずにはいられない魅惑を振りまいていた。
 設置されたDVD再生機器からはエンドレスで映像が流れていて、食い入るように見つめている幼稚園児くらいの子供がサーモンの卵を指差した。
 そして、卵膜を破って出てきたサーモンの仔魚が泳ぎ出すと、「赤ちゃんが生まれた」と嬉しそうに笑った。
 
 一方、別の幼子(おさなご)が水槽にへばりついていた。

「おしゃかなしゃん、ねんねしてる」

 水槽の底でじっとしている魚を見つめていた。

「カレイよ」

「かりぇい?」

 子供が水槽をトントンと叩いた。

「おひるでしゅよ。おきてくだしゃい」

 すると、カレイの目が動いて、ゆっくり泳ぎ出した。

「かりぇいしゃん、おっきした」

 子供がキャッキャと笑うと、「良かったね」と母親が微笑みかけた。
 そんな親子の楽しそうな姿を飽きることなく見続けていると、差波木社長がにこやかな表情で口を開いた。
 
「もう一つ、やりたいことがあるんですよ。店の中に魚を食べられるコーナーを作りたいのです」

 水槽とDVDと鮮魚売場に加えて、飲食コーナーを考えているのだという。

「見る、知る、買う、食べる、という体験が店舗内で完結できれば、魚に対する親近感が深まると思うんです。それを積み重ねていけば、もっと多くの人が魚料理に関心を持ってくれるんじゃないかなって思っているのですが、どうでしょうか?」

 すると、さっきの親子たちがおいしそうに魚を食べている姿が頭に浮かんだ。

「わたしは大賛成です」

「そうですか、賛成していただけますか。ありがとうございます。もしそれができたら食べに来ていただけますか?」

「もちろんです。必ず家族を連れてきます」

 彼は満面に笑みを浮かべて頷いた。

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