🌊 海の未来 🌊 ~新編集版~
 3日後、取引先との商談が早く終わったので、その足で〈さかなや恵比寿さん〉へ向かい、飲食コーナーの具体的プラン、特にシェフについて尋ねた。

「いや、まだ誰とも決めていません」

 彼は両手を広げて肩をすくめた。
 飲食コーナーのスペースは決めているが、誰に任せるかは、これからだという。
 
「わたしの母ではだめでしょうか?」

 恐る恐る訊いてみると、彼は〈えっ〉というふうに目を見開いた。

「差波木社長が飲食コーナーを計画していることを母に話したら、自分がやりたいと言い出したのです。突然だったので、わたしもびっくりしたのですが」

「そうですか。で、お母さんはご経験あるのですか?」

 食楽喜楽でシェフのアシスタントをしていることを伝えると、「ほ~、食楽喜楽ですか。あそこはいいですね。旬のおいしい魚をリーズナブルな価格で食べられる、確か、一つ星ではなかったですか」と記憶を辿るような表情になった。

「そうです。グルメワールド誌の一つ星です」

「ですよね。私も時々食べに行くのですが、食材の良さを大事にする調理法にいつも感心しています。でも、本気なのですか、お母さんは」

 間髪容れず頷くと、「それで、皿真出シェフはなんと」と探るような声が返ってきた。

「いえ、まだシェフには話をしていないと思います。ここでのお話が決まってからでないと……」

「そうですか、わかりました、では、お目にかかってお話を伺いたいと思います。お母さんをここにお連れ願いますか?」

「本当ですか。わ~、ありがとうございます。母が喜びます」

 体を二つ折りにして謝意を表して店を辞した。

 帰宅してそのことを母に告げると飛び上がらんばかりに喜んでくれたので、善は急げとすぐに電話をかけた。
 翌週の月曜日に訪問することになった。
 
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