🌊 海の未来 🌊 ~それは魚の未来、そして人類の未来~    【新編集版】
「まさか本当に大臣に来ていただけるとは思いませんでした。ありがとうございます」

 駿河湾の漁師、粋締瞬が笑みをたたえて出迎えてくれて、「事務次官までご一緒いただき、ありがとうござます」と頭を下げた。

「いや、私はたんにお供をしているだけですから……」

 慌てて手を横に振ったが、粋締の視線はすぐに横に移った。

「大臣、船酔いのご経験はありますか?」

「いえ、一度も」

「事務次官は?」

「フェリーで酔ったことはありません」

「フェリーですか。フェリーと漁船では揺れが違いますからね。念のため酔い止めの薬を飲んでおいてください」

 渡された薬を飲んだ谷和原は〈これからどうなることやら〉と憂鬱になったが、大臣は〈楽しみで仕方がない〉といった雰囲気で笑みを振りまいていた。
 それを見てまた憂鬱になった。
〈こっちを巻き込まないでよ〉と頭の中で愚痴を言った。

< 69 / 111 >

この作品をシェア

pagetop