🌊 海の未来 🌊 ~それは魚の未来、そして人類の未来~    【新編集版】
 水揚げが終わると、粋締が行きつけの海鮮酒場へ案内してくれた。
 大漁に気を良くしていた粋締は自分がご馳走すると言ったが、コンプライアンスに厳格な豪田は、飲食代は漁業水産省が支払うことを彼に念押しした。
 ルール的には自分達が食べた分を負担すれば違反にはならないが、僅かな疑念も抱かれないように細心の注意を払っているのだ。
 
 料理の注文が終わるや否や、泡が零れ落ちそうなほどのジョッキが3つ運ばれてきた。

「お疲れさまでした」

 粋締の発声に合わせて、豪田と谷和原がグラスを上げた。
 生ビールが喉を通る音に続いて、プハーという声がシンクロした。
 
「このために仕事をしているようなものですからね」

 粋締が口についた泡を手の甲で拭うと、豪田がその通りだというように大きく頷いた。

「でも、死ぬかと思いましたよ」

 口に泡をつけたままの谷和原が、漁の間船酔いに耐え続けた気持ち悪さを思い出して顔をしかめた。

「あんなに揺れるなんて。あんな状態でよく釣りなんてできますね」

 信じられないというように粋締を見たが、「今日の揺れは全然たいしたことないですよ。あの程度で酔っていたら、このあたりの小学生に笑われますよ」と軽くあしらわれた。
 谷和原は肩をすくめるしかなかった。
 
「それにしても豪快でしたね。テレビで見るのとは大違いで迫力満点でした」

 豪田は宙を舞うカツオの姿を思い出しているようだったが、すぐに頬を引き締めて、現場へ行くことの重要さを改めて感じたと言った。
 それが嬉しかったのか、「大臣が来ていただいた時に大漁をお見せできて良かったです」と粋締が上機嫌な声を出した。
 
 その後も漁の話で盛り上がり続けたが、ビールが日本酒に変わってお銚子のお代わりを頼んだ時、幾分目元を赤くした粋締が谷和原の顔を覗き込んだ。

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