🌊 海の未来 🌊 ~新編集版~
「ところで」

「ん?」

「いや、なんでもない」

 家までの道を海野と歩いている時だった。

「何?」

 海野は黙ったままだった。

「なんなの?」

 気になって立ち止まったが、海野は首を振ってまた歩き出した。

「変なの」

 あとを追いかけたが、海野が口を開くことはなかった。

 その後は無言で歩いていたが、家が近づいてきたので〈送ってくれてありがとう〉と言おうとした時、小指に海野の指が触れた。

 えっ、

 また触れた。

 えっ?

 海野を見たが、彼は前を向いたままだった。
 しかし、それだけでは終わらなかった。
 手を握られた。
 
 あっ、 

 その瞬間、電流が走って急に歩き方がわからなくなり、何もないのに(つまず)いて彼の方へよろけた。
〈ごめんなさい〉と言おうとしたら抱きしめられた。
 アッと思った時には頭が彼の顎の下にあった。
 動けなくなった。
 どうしていいかわからなくなった。
 ドキドキしてじっとしていると、彼の手が髪に触れた。
 そして、撫でられた。
 また電流が走った。
 しかしそれだけでは終わらなかった。
 彼の唇が髪に触れた。
 それがおでこに移り、眉毛から目に動き、鼻から唇へと下りてきた。
 もう立っていることができなくなった。
 体を預けると、合わせたまま彼の唇が動いた。
 
「ずっと、このままでいたい」

 時が止まった。

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