🌊 海の未来 🌊　～それは魚の未来、そして人類の未来～　　　　【新編集版】
　　　　　　　　🍴　差波木　🍴　

　さかなや恵比寿さん吉祥寺店の隣接地に回転寿司店『天然(てんねん)美味価楼(うまかろう)』が開店した。
　環境に優しい漁法で獲った天然の魚だけを提供する念願の寿司屋だった。
　大日本魚食と提携して〈脂が乗った旬の天然魚〉を安定的に調達できるようになったことによって実現したのだが、周りからは疑問の声が上がっていた。
　一貫当たりの価格が一般的な回転寿司店より高いからだ。
　安さを売り物にしなければならないのに、これでは客が集まらないだろうと噂されていた。
　しかしまったく意に介していなかった。
〈食べてもらえばわかる〉と強く信じていたからだ。
　口に入れてもらえれば満足感が価格の高さを上回ることは間違いないと確信していた。
　だから、連日行列ができる繁盛店になることに疑いは抱かなかった。
　
　それでも商売繁盛だけを考えていたのではなかった。
　自らの使命を果たすことを、つまり、持続可能な幸福循環の啓発を忘れてはいなかった。
　列に並ぶお客様に海や魚や漁に関する最新情報を印刷したチラシを渡し、水産業を取り巻く課題を多くの人に知っていただくための活動を積極的に推し進めた。
　家族の間で、友人同士で、少しでも話題にしてくれれば、それがいつかきっと大きなうねりになることを信じて続けた。
　
　その取り組みが功を奏したのか、天然美味価楼で脂が乗った旬の天然魚を食べた人が、さかなや恵比寿さんで魚を買うという嬉しい循環が生まれた。
　これが続けば漁師の考え方も変わるだろう。
　それに、価値のある旬の魚だけを獲れば漁師の収入が増えることを証明できる。
　そう考えた差波木は、水産物販売のさかなや恵比寿さんと回転寿司の天然美味価楼、そして、切り身魚食堂の母味優という三本柱をさかなや恵比寿さんホールディングス全店で展開することを決めた。
　
< 78 / 111 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop