🌊 海の未来 🌊 ～それは魚の未来、そして人類の未来～ 【新編集版】

「発泡性の日本酒を選びました。『永遠の誓い』という銘柄が気に入ったので」

　彼がグラスを掲げた。
　
「心からの御礼を込めて、乾杯！」

　グラスを合わせようかどうか迷っていると、彼の方から軽く当ててきた。
　それでも口に含むのを躊躇っていると、彼が目で促してきた。
　恐る恐るグラスに口をつけると、甘い誘惑が口の中に広がり、永遠の誓いが喉を通って胃の中に滑り落ちた。
　その余韻は素晴らしいものだったが、安易に飲んでしまったことに一抹の不安を覚えた。
　
　そんな胸の内を知ってか知らずか、彼は静かに飲み干してから、「実は、この店は目利さんの紹介なのです」と明かした。
　皿真出シェフの食楽喜楽と同様、目利が代表を務める魚自慢がすべての水産物を納めている店なのだという。
　
「店名が健美楼(けんびろう)というだけあって、健やかで美しい料理が通を唸らせているらしいです」

　それを聞いて一気に不安になった。
　ウニやアワビやトロなどの高級食材が次々に出てくるのだろうか、そんな高価なお店にのこのこ来てしまった自分は軽率だったのではないだろうか、そんなことが脳裏をよぎった。
　
「お待たせいたしました。健美野菜ジュースです」

　仲居さんが運んできたのは、形の違う小型のワイングラスに入った野菜ジュースだった。それも2種類。
　
「こちらがトマトときゅうりと玉ねぎをベースにした〈リコピンたっぷりジュース〉です。そして、こちらがバジルと桃とキウイをベースにした〈ビタミンたっぷりジュース〉です」

　凝った前菜が出てくるものとばかり思っていたので、その意外性に思わず口が開いてしまったが、説明はまだ続いていた。
「生産者がわかっている野菜や果物だけを使用しておりますので、安心してお召し上がりください」。
　そして、上品な笑みを浮かべて軽く顎を引いてから戸襖(とぶすま)を閉めた。
　
「おいしいですね。体の中に染み渡りますね。野菜と果物の本来の甘さが存分に生かされていますね」

　声に反応して見ると、差波木はジュースを2つとも一気に飲んでしまっていた。
　慌ててグラスを取って飲み干すと、間を置かず、次の皿が運ばれてきた。
　野菜サラダだった。