🌊 海の未来 🌊 ~新編集版~
 ジャズが流れていた。
 心地良いピアノの音色だった。
 ジャズとブランデーとライトアップされた日本庭園という、これ以上はないロマンティックなムードに包まれて、なんだかうっとりとしてしまった。
 すると、「美久さん」と名前を呼ばれた。
 そして、見つめられた。
 じっと、見つめられた。
 時が止まったように感じた。
 
「魚が命でした」

 静かな声だった。
 
「商売を軌道に乗せるのに必死でした。わき目も振らずにやってきました」

 フッ、と笑った。
 
「気づいたら、40歳になっていました」

 目を細めた。
 
「嬉しいことに、気の置ける仲間がいっぱいできました。でも」

 ブランデーグラスに目を落とした。
 
「心を通わせることができる女性は……」

 琥珀色の液体に映る自らの顔を見つめるようにして、またフッ、と笑った。
 
「こんな魚臭い男に近づく女性なんているはずがないですよね」

 哀しげな目になった。
 
「そんなこと」

 思わず口にしていた。
 
「そんなこと……ないと思います」

 すると、哀しげな目が消え、ほっとしたような表情に変わった。
 その柔らかな笑みが彼の心の中を映し出しているようだった。
 そんな彼に見つめられながら両手でブランデーグラスを持つと、甘い香りが漂ってきた。
 目を閉じて、ジャズとブランデーに心を委ねた。
 
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