🌊 海の未来 🌊 ~それは魚の未来、そして人類の未来~    【新編集版】
漁業の未来~持続可能な幸福循環~エピローグ
        🌊 漁港活性化策 🌊 

「漁港活性化のためには、制度の見直しが必要です」

 大臣執務室で谷和原は訴えた。

「省の予算の半分近くを投入して漁港の整備などを行っていますが、漁師や漁船の減少のため、漁港施設が有効に使われていないケースが目立つようになっています」

 職員を全国の主な漁港に派遣して調べた結果は、惨憺(さんたん)たるものだった。

「このままの状態を放置していると、漁港は寂れる一方です。漁港が寂れると」

「地域も寂れる」

 話を引き取った豪田の顔が曇った。

「そうです。漁港活性化のための一手を早急に打たねばなりません」

「良いアイディアはありますか?」

 問われた谷和原は鞄から書類を取り出した。

「若手の職員にまとめさせた活性化案です。大臣もご存知の通り、漁港はほとんど補助金で造られています。そのため、色々な規制でがんじがらめになっているのです」

 手に取った豪田はその先を促すように顎を引いた。

「その規制を大幅に見直すというのが、今回の活性化案です。漁港の施設用地を外部の企業が利用できるようにして、商業施設などを建設できるようにするのです」

「商業施設ですか」

「そうです。例えば、水産物の直売所を設けたり、おいしい魚料理を出す飲食店を開店したりできるようにするのです」

「いいですね。しかし」

「そうなんです。そのためには省令の改正が必要です」

「補助金の返還義務ですね」

「おっしゃる通りです。漁港の施設利用を外部企業に開放するためには補助金を返還しないとできません。しかし補助金を返せる財政的余裕のあるところはほとんどないのです。これが漁港活性化の阻害要因になっています」

「だから補助金の返還義務を廃止できれば」

「そうです。それさえできれば地域の特性を活かした魅力ある漁港が全国に誕生するはずです」

 豪田が目を閉じた。
 何かをじっと考えているようだった。
 それは越えなければならない高い壁のことではないかと谷和原は思った。
 
 少しして豪田が目を開け、自らに言い聞かせるかのように話し始めた。
 
「この案を進めるためには、二つの壁を乗り越えなければなりませんね。一つは、漁業連盟という壁。もう一つは、水産族という壁です」

 それは考えていたことと同じで、とても高い壁だった。
 特にあの人物を口説き落とさない限り一歩も前に進めないのは明白だった。
 すると、それを言い当てるように豪田が指示を出した。
 
「先ず、漁業連盟の賛意を取りつけてください。それが最優先です。漁業連盟の賛意さえ取りつけることができれば、水産族への説得もやりやすくなります」

「わかりました。権家理事長に会ってきます」

 頭を下げた谷和原は足早に大臣室をあとにした。

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