🌊 海の未来 🌊 ~新編集版~
 1週間後、漁業連盟の本部を訪れた。
 理事長専用応接室で待っていると、気難しい顔をした権家が入ってきた。
 
「事務次官がわざわざお越しとは、何事ですか?」

 警戒するような目で見つめられた。

「折り入って、ご相談があります」

「相談?」

 一瞬にして目が険しくなった。

「それは漁業連盟にとって不利益になるようなことではないでしょうな」

 谷和原は首を振って、居住まいを正した。

「いえ違います。今回は漁港活性化についてのご相談です」

「ほう~」

 権家の警戒が少し緩んだようで、「何を、どうするというのですか?」と膝を乗り出した。

 誤解を招かないように丁寧に説明すると、耳を傾けていた彼は(にわ)かには信じがたいと首を振った。
 
「本当にそんなことができるのですか? 補助金を返さなくていいなんて」

「もちろん、まだ案の段階ですので、これから国会議員、特に水産族の先生方への根回しが必要になります。そのためにも漁業連盟のご賛同が必要なのです。理事長が漁業連盟をまとめていただければ、水産族の先生方への根回しが楽になります」

「う~ん」

 権家が腕組みをして眉間に深い皺を寄せた。

「賛同するのはいいが、それによって我々が不利益を被ることはないでしょうね」

「ありません。利益になることはあっても、その反対はありません」

「本当ですね。漁師や漁業関係者の権利は今のまま保証していただけるのですね」

「もちろんです。〈あくまでも通常の漁港利用を妨げない範囲内で〉という条件をつけます」

「う~ん」

 権家が低く唸った。
 それは疑心暗鬼の響きを伴っているように思えた。
 
「少し考えさせてください」

 権家は漁港活性化案が記された書類にもう一度目を落とした。

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