🌊 海の未来 🌊 ~新編集版~
 その夜、権家は行きつけの居酒屋に長男を誘って、漁港活性化案について相談を持ち掛けた。

「どう思う?」

「いいと思うよ、俺は」

 跡を継いで漁師になった長男は、ぐいっと酒を飲み干して、父親と自分の盃に酒を満たした。

「今のままだと寂れるばかりだから。なんでもいいから早く手を打たないと」

 漁師の行く末を憂うような声は暗かった。

「このままだとこの辺り全部が終わってしまう。魚が獲れなくなったから漁師の数が減った。漁師が減ったから網や釣り糸などの漁具の販売業者も減った。魚の水揚げが減ったからそれに関係している人たちも減った。加工する人、保管する人、運搬する人。そういう人が減ったから空き家が増えた。かつては賑わっていた商店街もシャッターが下りっぱなしの店だらけになった。学校に通う子供も減った。だから教師も減った。小児科も減った。若い人が減ったから産婦人科も1軒だけになった。老人病院だけは忙しそうだけど……」

 嫌だ嫌だ、というふうに首を振って、嘆くように呟いた。

「漁業が衰退すると地域全体が終わっちまうんだ」

 権家は責められているように感じて返す言葉もなく、店の品書きに目を落とした。
 長男もそれ以上口を開くことはなく、沈黙の中、ただひたすら杯を傾け続けた。
 
「この件、俺に預けてくれないか」

 権家が勘定を済ませて立ち上がろうとした時だった。
 
「若い奴らに訊いてみるよ」

 長男が権家の肩に手を置いた。
 
 
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