🌊 海の未来 🌊 ~新編集版~
        🍴 守人の覚悟 🍴

「分身の術が使えないかしら……」

 優美は自分の髪の毛を1本抜いて、フッと息を吹きかけたが、「できるわけないわよね~」と諦めの表情になって深く息を吐いた。

 差波木社長の決断によって母味優の全面展開が決まり、準備が整った店舗から順番に開店していくという構想を知った優美は、狐につままれたような気持ちになった。
 体は一つしかないのだ。
 対して店は100店舗。
 どう考えても不可能な話だった。
 具体的なことは後日ということだったのでしつこく訊くわけにもいかず、その分モヤモヤとした気持ちが続いていた。
 
 具体的な計画が告げられたのは、構想を聞いてから2週間後のことだった。
 
「もちろん、お一人で100店舗を運営できるわけはありません。実際の運営は各店舗で行いますのでご安心ください」

 それを聞いてホッとしたが、話はそれで終わらなかった。

「幸夢さんにお願いしたいことが二つあります。一つは、店名の使用許可です。母味優という店名を使わせていただきたいのです。もちろん、使用料をお支払いします。もう一つは、調理指導です。各店の担当者を順番に迎え入れて吉祥寺店で指導をしていただきたいのです。加えて、なんとか時間を作っていただき、毎月数店舗を回って、母味優の味が再現できているか確認していただきたいのです。もしできていなければ、その場で指導をしていただきたいのです。当然、これに対しても指導料をお支払いします」

 悪くない話だった。
 いや、有難い話といっても良かった。
 問題は、母味優・吉祥寺店を月に数日空けることになることだった。
 席数20と開店当初の倍になった母味優はシフト制によってなんとか運営できている状態で、余裕というものはまったくなかった。
 ましてや自分の代わりになる人物はまだ育っていなかった。
 
 どうしよう……、

 新たな課題に優美は頭を抱えた。

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