🌊 海の未来 🌊 ~新編集版~
「私に任せなさい」

 その日の夜、妻から話を聞いた守人が胸を張った。

「えっ、私にって、まさか……」

「そう、そのまさか!」

 出張指導で店を不在にする間、自分が代わりを務めると告げた。

 守人は専業主夫になってからメキメキと料理の腕を上げていた。
 妻が持って帰る〈切り身魚の調理チラシ〉を見て、そのチラシに書かれた調理法に忠実に料理をし、それを繰り返すうちに妻と変わらないおいしさになっていて、そのことは認めてくれていた。
 
「本気なの?」

「冗談でこんなこと言えるか!」

 守人は真剣な表情で言葉を継いだ。

「将来、調理師の資格を取りたいと思っている」

「調理師? 国家資格の?」

「そうだ。でも、資格を取るだけじゃない。いつかお前と2人で店をしたい」

 余りにも意外だったせいか、妻がポカンと口を開けた。

 守人は時々母味優に足を運んでいた。
 食べる楽しみもあったが、妻と客のやり取りを見るのが好きだった。
 そして、妻が出す料理を客が喜んで食べている姿を見るのが嬉しかった。
「おいしかったです」「ごちそうさま」「ありがとう」という客の声を聞くと、自分が言われたかのように感動した。
 それだけでなく、自分もこの喜びの輪の中に入りたいと思うようになった。
 だから妻が持って帰る〈切り身魚の調理チラシ〉に書かれた調理法を必死で修得した。
 いつか手伝いができる日を夢見て。
 
「任せなさい!」

 守人がもう一度胸を張った。
 すると妻は我に返ったような顔になって口を閉じ、食い入るような視線を向けてきた。
 
「本気なのね」

 守人は強く頷いた。
 
 
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