🌊 海の未来 🌊 ~新編集版~
 重苦しい雰囲気の中、席に着いた源と入れ替わるように谷和原が立ち上がった。
 初日のテーマ『資源としての魚をどう保護していくか』のディスカッションに先立ち、漁業水産省の案を提示するという。
 
「3回に渡る会合での皆様のご発言、及び、水産業界に関わる専門家のご意見を取り入れて漁業水産省案を作成いたしました」

 谷和原の声は落ち着いていた。
 
「先ず、『魚は資源であり保護しない限り絶滅の危険性がある』というのが大前提となります。その上で、『これ以上の乱獲は止めなければならない』というのが大原則になります」

 スクリーンに新たなパワーポイントが映し出された。
① 科学的資源調査に基づく魚種別漁獲枠の設定
② 個別割当制度の導入
③ 譲渡可能個別割当制度の早期検討

「ノルウェーでは水産資源の減少に対して漁獲量の規制を行い、船ごとに漁獲割当量を定めました。その結果、自国200カイリ内の水産資源は回復しました。豊かな海が戻ってきたのです。日本でも見習うべきと考えます」

 谷和原が次のスライドを要求した。

① 産卵海域での漁の規制
② 一網打尽漁法の規制
③ 海上投棄の規制

「産卵海域で魚を獲る行為、未成熟の魚まで一網打尽に獲る行為は、将来の親魚を減らすことに繋がります。また、獲った魚を海上で投棄する行為は、海の恵みに対する裏切りになります。これらの行為は厳に慎まなければなりません」

出席者は誰もが頷いていた。

「それでは、ご出席の皆様のご意見をお願い致します」

 谷和原は会場全体を見回して発言を促した。
 しかし、誰からも手が上がらなかった。
 漁師代表の取出が何か言いたそうな顔をしていたが、権家理事長の鋭い視線に気づいたのか、蛇に睨まれた蛙状態になっているようだった。
 権家は規制を受け入れる覚悟ができているのかもしれなかった。

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