🌊 海の未来 🌊 ~新編集版~
 30分の休憩後、会議が再開すると、漁業コンサルタントの真守賀が口火を切った。

「魚を長期保存できる技術への投資が安定した収入をもたらします。ノルウェーでは脂が乗ったサバを1年を通して出荷しています。どうしてそんなことができるのでしょうか?」

 視線を権家に向けると、彼は弱々しく両手を広げた。

「最新の冷凍技術の成果なのです」

 真守賀はノルウェーの大規模冷凍施設の写真を掲げて、「秋から冬に漁獲したサバの成魚は脂が乗っています。その旬のサバを冷凍保存して、年間を通して安定的に出荷しているのです。漁師は秋から冬にかけてサバ漁をするだけです。それ以外の季節にはサバを獲りません。日本ではどうですか?」と取出に視線を向けた。
 すると、〈残念ながら〉というように首を振って、「旬ではない時期にもサバを獲っています。その中には未成魚のサバも多く混じっています」と声を落とした。
 
「そのサバは高く買い取ってもらえますか?」

 問われた取出は瞬時に首を振った。
 それもかなり大きく。
 
「ですよね。安く買いたたかれるだけでなく、おいしくないから外国産のサバに見劣りしますよね」

 取出は〈残念ながらそうだ〉というようにうつむいた。
 
「ノルウェーのように旬の時期にだけ漁をして、それを高く買い取ってもらうのが一番いいのではないですか? その美味しい魚を最新の冷凍技術で保存して、年間を通して安定的に出荷する、その仕組みを作ることができれば無駄な漁が大幅に減ります。これはある意味、生産性の向上につながります」

 そして豪田と谷和原に視線を向けた。
 
「大臣と事務次官にお願いがあります。漁業を活性化するような新しい技術への投資を積極的に進めていただきたいのです。漁獲規制は漁師のやる気を削ぎます。しかし、生産性向上投資が伴えば、漁師は旬のおいしい魚だけを獲って生活していけるようになります。安定した収入が確保できるのです」

 見つめる目に力が入り、声が大きくなった。
 
「日本の漁師にとって必要なのは補助金ではありません。将来に希望が持てる計画なのです。その計画を実現するための投資なのです。今すぐ補助金のバラマキを止めて、その予算を生産性向上投資に回してください。よろしくお願いします」

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