愛しい魔王様泣かないで!私はここにいます

第1章 魔王様と私-15

 次の瞬間、獣は耳を垂れ、長い尻尾も垂らして、キュゥンと小さく鳴いた。まるで叱られたみたいに。それから、私の上から退き、破れた服から覗く肩を舐めてくれた。ちょっぴり血が出てるけど、これくらいならすぐ治るわ。
「ありがとう、大丈夫よ」
 そっと背中に手を置くと、頭をすり寄せてきた。大きな犬が懐いているみたい。
「ふふ、くすぐったい」
 そこへ、突然景色が割れて、あっと思った時には魔王様が私たちのそばに立っていた。息を切らせて。
「ジーナ!」
 草の上に座っている私を、強く抱きしめる。魔獣は、さっと私から離れ、頭を垂れた。
「ケガをしたのか」
「何ともありません」
「見せてみろ。……毒に侵されてはいないようだな。魔の波動を感じてやってきたのだが、肝が冷えたぞ。お前を失うかと」
「私は、どこへも行きません」
 温かい。あれ以来、こんなにしっかりと抱きしめられたのは初めて。
「リアス」
「はっ」
「お前はこのまま、グッタの見舞いに行ってやれ。俺たち夫婦からと言って、これを渡してやってくれるか」
「これは見事な……かしこまりました」
 私は腕の中に閉じ込められて見えないけど、果物か何かを出したのかなと思った。
「頼むぞ。よくジーナを守ってくれた。礼を言う」
「もったいなきお言葉。では」
 リアスの声は、少し震えていた。私は魔王様の背中に腕をまわし、抱擁に応えた。この方は、その場にいなくても、何があったのか正確に分かっているんだわ。
 足音が遠ざかり、辺りは静まり返った。魔獣は、私の後ろで丸くなっている。
「ジーナ」
 私を呼ぶ旦那様の声は、とても切ない。顔を上げると、瞳が揺れていた。なぜ泣くの? 泣かないでください。私はここにいます。
 目を、閉じた。数秒の後、ゆっくりと唇が重ねられた。熱い接吻だった。

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