愛しい魔王様泣かないで!私はここにいます

第1章 魔王様と私-2


 膝を抱えて座り、星空を見上げて待った。どうせ死ぬなら伸ばせるところまで伸ばしてみよう、と長くした金髪が、風になびく。
 魔王様、遅いなあ。本当に来るのかな。実はここで待ちくたびれて飢え死にっていう結末? それなら今までの娘たちも発見されているはずだし……。
 答えの出ないことを次から次へと思いめぐらせていると、不意に人の気配を感じた。正確に言うと、人ではなかった。月を背にして目の前に立ったのは、頭の上に立派な角を生やした男性。髪は、短くて黒っぽい。マントをはためかせ、私をじっと見下ろしている。
「魔王様……?」
 世界を背負っているかのような、圧倒的な存在感。
「逃げないのか」
 訝しむ声は、想像していたよりも優しい。だから、素直に答えた。
「逃げても、帰る場所などありません」
「そうか」
 彼は私をさっと抱き上げ、飛び立った。夜を越え、海を越え、景色が変わり、人の世を離れたことを知った。
 黒々と光る岩山。見たことのない木や花。驚くほど澄んだ空気は、彼の横顔にも似ていて……などと考えているうちに、王宮に入っていた。
 そっと下ろされたのは、大きな部屋。天蓋付きのベッドに座らされ、ホッと息をついた。
「ここは……」
「魔界だ」
「魔界……」
 本当にあったんだ。では、前に生贄になった人たちも、ここに?
「少し休め」
「あ……」
 彼は、マントを翻して出ていった。
 私は、ベッドに身を投げ出し、これからのことを考えようとした。でも、できなかった。自分で感じることができたのより多くの時間を、飛び越えてきた気がした。
「とにかく、まだ生きてる……」
 呟いて、糸が切れたように眠った。
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