愛しい魔王様泣かないで!私はここにいます

第1章 魔王様と私-20

 魔界の歴史や地理にだいぶ明るくなった私は、少しばかり、魔王様の仕事を手伝うことができるようになった。その名の通り彼はこの世界の王であり、秩序を守るため、あらゆることを一人で背負っている。呼吸をするように自然にこなしてはいるけれど、私がおそばにいることで心が安らぐなら嬉しい。ボニーさんが入れない場所のお掃除も、許してくれるようになった。
 合間には、図書館で、私には難しいかなと思っていた本を解説してくれたり、庭の真ん中の草の上で寝転んだり。私は彼の横に座り、羽のあるちっちゃな魔物たちのおしゃべりに時々加わる。笑い声を立てると、彼に腕を引かれる。
「きゃっ……」
 バランスを崩して、胸の上に倒れ込む。旦那様を見下ろす格好になって、ドキッとする。
「もう……また焼きもちですか」
「お前は俺の妻だ」
「そうですとも。ふふっ……」
 くるっと体が回転して、見下ろされ、甘い甘い時間の始まり。魔物たちは、邪魔をしないようにと隠れてしまう。王に忠実なだけでなく、心優しい性質の生き物ばかり。
 さすがに庭で最後まですることはないけれど、胸元に所有印がいくつも増えるくらいには愛される。人の世は今頃厳しい冬に見舞われているというのに、私は暑くもなく寒くもない、彼の力で完璧にコントロールされた世界で幸せに暮らしている。
 ずっと、そうやって生きていくのだと思っていた。命尽きる日まで。
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