愛しい魔王様泣かないで!私はここにいます

第1章 魔王様と私-21

 魔界へ来て、数か月が経った。人の世の長い冬は、じきに終わる。みんな、元気にしてるかな。私のことは、死んだと思っているのだろうな。
 ここのところ心配なのは、魔王様。私に向ける眼差しも、触れる指も、私のすべてを飲み込むような愛の行為も、日を重ねるごとに想いが深まるのを感じる。けれど同時に、一日過ぎるごとに、彼は沈んでいくように見える。
 とうとう黙っていられなくなり、ある晩、行為の後の甘い戯れの中で、思い切って尋ねてみた。
「魔王様。なぜそんなにも悲しそうなのですか?」
 彼は、絡めていた指をほどき、ぐっと私の手を握った。離しはしない、という意志を感じる。瞳の強い光も、そう語っている。それなのに、彼から出た言葉は――。
「春になれば、お前を里へ帰さなければならない。そういう約束だ」
 ガン、と頭を殴られた気がした。
「やく、そく……?」
 何それ。知らない。私は死ぬまでここにいると決めているのに。
「一人目の娘がここへ送られてきた時から十年、語り継がれてきたことがある。『魔王にさらわれても春まで生きていられる娘がいれば、その娘にも里にも終わることのない繁栄がもたらされるであろう』……とな。お前の時代には、そこは伝わっていなかったのか?」
「はい……少なくとも、私は聞かされておりません」
 私は彼にしがみついた。絶対にいや。離れたくない!
 それは私のわがまま? 里のためには、この恋を捨てなければならないの? 生まれて初めて愛した人。生涯を共にすると――たとえ婚礼の儀がなくても、自分自身に誓っていたのに。
< 21 / 40 >

この作品をシェア

pagetop