愛しい魔王様泣かないで!私はここにいます

第1章 魔王様と私-22

 彼は私の背を撫で、あやし、優しい笑みを浮かべた。額に押し付けられた唇は、契約終了の印?
「里へ帰りなさい。……幸せだった。ありがとう」
「そんな……幸せなら、なぜ私を手放すのですか」
「お前のためだ」
「あなたのいないところで、幸せになどなれませんっ……」
 怖かった。彼のいない人生を想像するなんて、今の私にはできない。どうしたらいいの? 彼は約束を守ろうとしている。里はこの先、天災も何もかも、恐れなくてよくなる。私が、帰りさえすれば。 
 決断できない。ううん、自分の心は分かっている。ここにいたい。それ以外の道なんて選べない。
 里の者として果たすべき役割と、ここで知った愛。ふたつに引き裂かれてしまいそう。それ以上何も言えず、大泣きをすることもできず、嗚咽を漏らすことしかできなかった。
 彼は私をしっかりと抱き、背中を手のひらで優しく叩いた。赤ちゃんにするみたいに。やっぱりいや。行きたくない。だって私はまだ、自分の気持ちを伝えてすらいない。彼も言葉にしないのは、別れが来ると分かっていたからなの?
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