愛しい魔王様泣かないで!私はここにいます

第1章 魔王様と私-23

 長い長い沈黙の末に、彼は私をそっと抱き起こした。肩にマントをかけ、体を覆ってくれる。
「魔王様……」
 乱れた髪を優しく整えてくれる、ただ一人の夫。愛してる。あなたを愛しているの……!
 彼は指で宙に文字を書いた。すると、拳ほどの大きさの球体が現れた。
「綺麗……」
 内側から発光しているそれは、草原の緑の色を見せたかと思えば、庭にたくさん咲いている黄色い花のような色になったり、淡い水色になったり。光は強く、温かい。
「これは?」
「この玉を里へ授けることにしよう――これは俺の命の玉だ」
「え!?」
「そんな顔をするな。寿命が千年ばかり縮むだけだ」
「あ……」
 そう、か。魔王様は、長い時を生きてきた。この先も。私がここへ残っても、数十年後には独りぼっちにしてしまうんだ。だから、今のうちに手放そうと……? 
「この玉があれば、俺の魔力で里は永遠に守られる。お前が帰らなくてもな」
 私がここへ残るというのなら、約束を違える彼は代案を出さなくてはならない。それが、これ。ここへ残るなら、彼の命は千年も縮んでしまう。
 里の願いと、彼の命。それはあまりにも重い契約であり、私が口を出すことも、変えさせることも、できるはずなかったんだ。
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