愛しい魔王様泣かないで!私はここにいます

第1章 魔王様と私-30

 飛ぶように、そりは走る。
「あそこは、以前は出入り自由でな。命知らずの探検家が地図を作ろうと挑んだり、子供たちの遊び場になったりしていた。すべての道を攻略できた者は一人もいない。しかも、あの迷宮は生きていてな」
「生きている?」
「ああ。勝手に道が増え、伸び続けている」
「迷宮そのものに命があるのですね」
「そういうことだ。収拾がつかなくなってな。百年ばかり前に閉鎖した。その時、お前に渡した石を鍵にしたのだ」
 何というか、さすがは魔界だ。私が今言いたいのは、ただひとつ。
「お掃除してから封印すればよかったのに」
「『あいつ』は生きているからな。気に入らない者が自分の中を弄ろうとすると癇癪を起こす。俺か、俺の力を受け継いだ者でなければ不可能だ」
「私、触れてはいけない所に触れてしまったのですね。それまでは、おとなしくしてくれていたのに。明日、謝りに行きます」
「明日は俺も行こう。掃除の指示をしてくれ」
「ふふ、わかりました」
 二人でできること、少しずつ増えていくといいな。
 一緒に生きるって、そういうこと。

 千年、共に暮らした。
 アンジェ様の命の玉のおかげで、里は豊かになった。私が幸せに生きていることも伝えられ、彼の地はいつからか、「奥方様の里」と呼ばれるようになった。
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